Column

追憶の東京〜地図のような文章〜
デジタルとかアナログとか

サイトウナオミ

もう番外編とつけるのもやめた。流れるままに横滑りしていくことにした。

先日、Featureの取材を受け、編集長の牧田さんと90年代終わりから現在に至るまでのことをいろいろと思い出しながら話した。この20余年でいったい何が変わってしまったのか、ただ単に自分が若くなくなってしまっただけなのか、答えはまだ出せない。当時楽しかったなぁと思うものは、ただ単に「よき思い出」なのか、本当に楽しかったもので失われてしまったものなのか、細かく丁寧に解きほぐしていけば、今の時代でも楽しいことを取り出すことができるのではないかとは思っている。

まず写真の話。
iPhoneで写真を撮って(そもそもこれが写真なのかってことからして疑問ではあるが)、Instagramにアップするという今となっては自然な行為。楽しい?よく考えると、もうそんなに楽しくない気がするのは気のせいか。そもそも僕はInstagramをいつはじめたのだろう?調べてみたら2011年6月。もう10年もやってる。ここ数年は時々猫の写真をアップする以外はお店の宣伝でしか使ってない気がする。始めた頃は、もう少し楽しかったような気がする。

大学1年の秋くらいから、知人に借りたNikonの一眼レフを持ち歩いて、なんてことのないそこら辺のものや風景をたくさん撮っていた。主に暗くなってから撮ることが多かったので、ISO1600のモノクロフィルムをよく使っていた(フラッシュはなかったので)。ボケないように撮ったつもりでも、現像されてくる写真はボケボケのよくわからないものが多かった。フィルムを買う(当時はたくさんの種類のフィルムがあった)→写真を撮る→現像に出す→現像された写真を見るという流れがとにかく楽しかった。ボケボケのよくわからない写真の中に、時々は自分で満足のいく写真があった。しばらく、そんな感じで一眼レフのフィルムカメラを持ち歩いて写真を撮っていたが、働き始めて忙しくなっていつのまにかやめてしまった。

時代はいつのまにかデジタルカメラが主流となった。僕もいくつかコンパクトカメラを使ったりしたが、最終的にCanonのEOSに落ち着いた。だけど昔のように写真を撮るのが楽しいという感覚は、戻ってはこなかった。そうこうするうちに、iPhoneのカメラ機能がどんどん進化していき、カメラを持ち歩くということがなくなってしまった。ポケットに入る高機能のiPhoneで気軽に美しい「画像」が「記録」できるが、何か全然楽しくない。何が楽しくないのだろうと考えたことがある。おそらく撮った瞬間にあの小さなモニタにすぐに撮った写真が出てきてしまう時間の短さが楽しくないんだろうと思った。どういうものを撮るかということを全てその場で制御できる(気になる)のが面白くないのだろう。どんなものを撮ったのかということを一旦しまっておいて、しかるべき時間を置いて出てくるのが面白かった気がする。

次は音楽について。
大学1年の夏からジャズを中心に、昔のロックミュージックなど様々な音楽を聴いていた。といってもまだYouTubeも何もないので、友だちからの推選やCDショップ(主にディスクユニオン)のポップ、聞いたことのある名前やジャンルなどわずかなヒントを元に、なけなしのお金でCDを買っていた。そんなヒントも何もなくジャケ買いをしたこともある。ジャケ買いした中古のCDがすごく良くて、すごい発見をしたつもりになっていたら、有名なアルバムだったなんてこともあった(プロコル・ハルムの青い影)。そんな感じでだいたいは、とりあえず買ってみたとこ勝負ということでCDを買い漁っていた。バイトして得た大切なお金で買っていたから、そんなにハズレはなかった。というよりも全てを大切に聴いていたと思う。友だちとそんなCDを何度もかけながら酒を飲んで、あーだこーだ話をしていた。

高校生のとき、英会話のイーオンに入学するとWALKMAN(もちろんカセットテープ)をもらえるというキャンペーンがあって、親に頼んで入学させてもらった。かなり薄型のWALKMANで、細い充電式の電池だったと思う。大学の通学時も最初の頃はそのWALKMANでラジカセでダビングした音楽を聴いていた気がする(主にJ-POP)。そして時代はカセットテープからMDになった。CDとほぼ同じような音があの小さなディスクから聴けて、しかもCDのように頭出しができるのは、革命的だった。買ったCDをMDに録音して、電車の中で聴いていた。

しばらくMDを使っていたと思うが、いつの間にか、音楽をMacに取り込んで、CD-Rに焼いたり(あれは違法だったのか?)、iPodで聴くという時代になっていた。パソコンには、自分の持っているCDが全部入れられたり、iPod1台を持ち歩けば、驚くほどたくさんの曲がいつでも好きなときに聴ける。という夢のような時代になった。そんな時代を経て、最近では、Apple Music、Amazon・・・など様々なサブスクサービスで、世界中の音楽がいつでも聴くことができるようになった。まるでタワーレコードを持ち歩いているようだと思った。何度かこのサブスクサービスを利用してみたのだが、どうもあまり好きになれない。何か楽しくないのである。なので、それは利用しないでCDやレコードを聴いている。

写真にしろ、音楽にしろ何がどう楽しくないか、ということは実はあまり深く考えないようにしている。ただ直感として「そうじゃないだろ」と思うのである。

iPhoneのカメラ機能にしろ、サブスクの音楽配信サービスにしろ、とても素敵で楽しいサービスだとは思う。ただ、それによって失われるものや手に入らないものも確実にある。機能やサービスとして進化をとげた便利でスピーディーなことが、実はめんどくさくて時間がかかるけど楽しいことだったのではないかと思ったりする。とにかく、写真も音楽も自分は仕事にしているわけではないので、自分の好きなようにやらせてもらっている。あくまでも趣味なので。

Creator

サイトウナオミ

地図描き/ふやふや堂店主。群馬県桐生市出身。東京・京都を経て2012年秋より再び桐生市に住む。マップデザイン研究室として雑誌や書籍の地図のデザインをしながら、2014年末より「ちいさな本や ふやふや堂」をはじめる。桐生市本町1・2丁目周辺のまちづくりにも関わり始める。流れに身をまかせている。