Column

勝手に妄想映画館 13

GO ON編集人

先日ネットのニュース記事で、トニー・レオンが会見で涙を流している写真をみた。イタリアで開かれているベネチア映画祭で金獅子生涯功労賞を受賞したとのこと。号泣してる姿にときめいたので思わずスクショして保存した。トニー・レオン61歳かぁ…と遠い目をしていたら、レスリー・チャン没後20年の文字を目にして複雑な気持ちになった。生きていたら66歳。レスリー・チャンかトニー・レオンか、誰にも問われていないのにどちらと付き合いたいか妄想していたことを思い出した。今月はそんな香港スター2人の映画作品の感想文。

『さらば、わが愛 覇王別姫』

一度テレビでみた時に結構圧倒されて、ちゃんと映画館でみたいと思ってた作品。

程蝶衣(レスリー・チャン)の幼年期〜少年期〜大人の過程に全く違和感がない。幼年期からすでにレスリー・チャンの雰囲気を感じた。完璧なキャスティングである。これらは『ラストエンペラー』でも同様だ。幼年期〜少年期のエピソードが大人になってからも引用されてる箇所があるので、そういう部分に気付くと胸が熱くなった (サンザシとか手が冷たいとか石頭とか) 。

レスリー・チャンは化粧をしていなくても、所作も含め全てが美しくて見惚れてしまう。菊仙(コン・リー)なんて目じゃない。阿片に耽ってるシーンもスッポン(?)の生き血を目の前にうっとりする顔も。袁四爺の顔に隈取りし、段小楼の代わりにして微笑んでる姿は哀れさを感じた。切ない。

文化大革命、自己批判の裏切り合戦はキツかった。小四の裏切りも。みんな保身に走る。って第三者目線でみてたけど、現在も同じだと思うと目を背けたくなった。

鑑賞後も何か引っ張られる気持ちになるのは、今この世にレスリー・チャンがいないということ。そういうのも含めて物語になってるような気がした。

撮影時、レスリー・チャンは蝶衣が憑依していたようだったとパンフに書いてあった。レスリー・チャンの人生みたいな映画に思える。「今生きていたら…」なんて考えてしまうけど、気持ちの置き場所がそこしかない。

中国では上映禁止らしい。文化大革命について学びたい。四人組も。

『ラストエンペラー』も『さらば、わが愛 覇王別姫』も中国の歴史を壮大に描いた作品は圧倒されるし勉強にもなる。こういった作品は今後つくられるのだろうか。そういった疑問も残る。

『ブエノスアイレス』

過去にビデオを借りてみた時は〈男同士〉という部分しかみておらず、その記憶しかなかった。チャン・チェンが出てることも最近知ったぐらい。

四半世紀ぶりにみたけれど、とんでもなく美しい映画だった。音楽と映像がグイグイ映画の世界へ引っ張ってくる。クリストファー・ドイルの撮る映像ってこんなに美しかったのか。食肉が吊るされているシーンや血溜まりさえも、美しいと思ってしまった。上から撮ったイグアスの滝をガン見してたら落ちて死にそうになった。

レスリー・チャンが美しいことは重々承知しているが、退廃的で妖艶な姿にクラクラした(『さらば、わが愛 覇王別姫』の美しさとは別の魅力がある)。恋愛関係における「やり直そう」は禁句であることは分かるけれど、レスリー・チャンに言われたら絶対無理だ。レスリー・チャンと何の関係も築いていない私だが、断ることができるか想像して1人で悶絶した。

トニー・レオンもレスリー・チャンも泣いている姿が好きだ。胸の奥の苦しみが伝わる。
チャン・チェンが耳をすまして音を聴くシーンも良い。顔の表情より声が重要なのだね。テープレコーダーに声を吹き込む時、涙を流すトニー・レオン。悩みを世界の果てに捨てるという話も好き。チャン・チェンがこの映画の中にいて良かった。2人とも死に向かっているように思えたから。

この足下に故郷(香港)がある(アルゼンチンの裏側は香港)と話すシーンで、地球が丸いということを思い出した。言われないと丸いってこと忘れがちだ。

部屋のインテリアにも注目を。〇〇風といった感じではなく、色々なカルチャーが混ざってできあがったような感じ。雑多で汚くて臭そうな部屋だが、そういうの好き。

「会おうと思えばどこでも会える」清々しいラストだった。

※『勝手に妄想映画館 番外編』より

『CUT』1995年9月号レスリー・チャンのインタビューを読んで

28年前の『CUT』にトニー・レオン、レスリー・チャン、カリーナ・ラウ、ウォン・カーウァイのインタビューが掲載されている。そんな貴重な雑誌をボンジュール古本からもらった。ふと思い出して読んでいたら、レスリー・チャンのインタビューに胸を打たれたので紹介したい(このインタビューにはフェイ・ウォンも出る予定だったらしいがドタキャンされたらしい)。

当時39歳のレスリー・チャンはすでに超大物スター。役者としてのターニングポイントが『男たちの挽歌』ということにも驚いたが(だってまだアイドルっぽさがあったから)、こんな話をしている。

(テレサ・テンの死に対して)
つまり、人生というのは短すぎるし、この先どうなるかなんてだれにもわからない。だから、一旦人生を楽しめたと思えたら、それが友情であれ、愛情であれ、とにかく人生を少しでも、もうちょっと振れの少ない人生を送りたいと思うんだ。(1995年雑誌『CUT』9月号より)

レスリー・チャンの人生は蝶衣かウィンか…、私は蝶衣だと思うけれど。このインタビューの3年後に亡くなっている。

私の妄想映画館ではレスリー・チャン特集を組んで全作品を上映したいと思う。鑑賞後はレスリー・チャンかトニー・レオンか、どちらを彼氏にしたいかについて熱く語り合おうではないか。

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。