Feature

幸せな人生を送るために

Ladybird Studio

毎月、エッジの効いたコラムを届けてくれるLadybird Studioの杉戸さん。
はて、一体何者なのか?
活版印刷工房のLadybird Pressを運営するかたわら、手描き染め工房BLOSSOM、デザイン制作のカササギ写真&オナガ図案など、創作活動は多岐にわたる。
しかし、それらの活動とエッジの効いたコラムとの関係性はあるのか?
私は恐る恐る、杉戸さんに歩み寄っていった。

Ladybird Studioの道のり

都内ではグラフィックデザイナーとして、そして群馬県桐生市へ帰郷後は、選挙事務所で働き国会議員の秘書をやっていたという異色の職歴を持つ杉戸さん。
紆余曲折を経てクリエイティブな活動に戻り、2011年に活版印刷工房Ladybird Pressを立ち上げた。そして2020年に様々なクリエイティブな活動を称したLadybird Studioへ名称を変更した。

クリエイティブの世界から政治の世界まで、振り幅が大きすぎて接点を追うことに意識が遠のいてしまった私だが、必死に杉戸さんを追いかけて行った。

活版印刷の工房

では、活版印刷や手描き染めの道を選んだ理由は何か?
杉戸さんのクリエイティブ思考の源を探ってみた。

「マーシャル・マクルーハンの『マクルーハン理論』を読んだ時に、昔からある物事や技術は新しい物が生まれてくると、後に価値を見出していく。そしてそれは、芸術として価値を変えていくことに興味を持ちました」と話す杉戸さんは、古くからある活版印刷の技術を「職人」ではなく「芸術」として考えている。

こちらが活版印刷の機械

「インクがちょっと掠れたり多かったり、そういったアバウトな部分は機械の特性から生まれるものだと思うんです。職人的な技術や生産性を考えた方法より、味があって楽しいので僕は好きですね」。
確かに、杉戸さんから「職人気質」の匂いは全く感じない。

手描き染めも同様の考え方だ。
杉戸さんは、6年前にパリで開催された日本文化を紹介するイベントに参加した。そこで東京手描友禅の伝統工芸士と出会った。

「桐生には、着物の柄をつくる図案屋がたくさんあったんです。知り合いの図案屋に色々教えてもらい、日本の伝統や文化に興味を持ち始めました。東京手描友禅をみた時に、着物の図案・日本の伝統・グラフィックデザインの仕事で得た色の考え方が結びつき、染色に興味を持ったんです」。

東京手描友禅は京友禅や加賀友禅と違って1人で全工程をこなすので、制作過程において自由度が高いという。
杉戸さんは先生の指導を受けた後、ストールやスカーフを制作している。将来的には着物の制作もしたいと話す。

現在制作中の手描き染めのストールやスカーフ

「手描きだから、ブレや滲みなど偶然生まれたものがおもしろいですね。活版印刷の考えと同じです」。

「和柄にしたらしっくりこなくて、自然をモチーフしたものや北欧柄、アフリカの文様なども参考にしてますよ」と作品をみせてくれた。
このようなアイデアは、グラフィックデザインの仕事をしていたからこそ得た、柔軟な考え方ではないだろうか。

9月頃に展示販売会を予定している杉戸さん。作品をじっくり鑑賞するのが楽しみだ。

型にはまった考え方からの脱出

昔からある技術を元に創作活動をしている杉戸さんだが、型にはまった考え方に対しては、賛成できない部分もあると話す。

「政治の世界にいた時にも感じたんですが、『これはこういうものだ!昔から決まっているからそれに従う』という考え方が僕には合わないですね。もっと気楽にやって、そこで偶然生まれたものを大切にしたいと考えます」。

「伝統や文化を守ることは大切。でもそれを守るために『全員同じ方向を向いて一糸乱れずにやる』となると、長続きせずに疲れてしまう。でも、『全員同じ方向を向いているけど、各々は別のことをやっている』というポストモダン的な考え方が僕には合っているかな。楽だしね(笑)」。

なるほど!あのエッジの効いたコラムは、この考え方から生まれているのだろう。
「楽だしね」と笑う杉戸さんだが、伝統や文化を無視したり質を下げることは一切してない。

「こだわりすぎると疲れちゃうね(笑)。僕みたいな考え方のほうが幸せじゃないかな?世の中もそういった価値観に変わっていくと思う」。

その話を聞いてガチガチに固まった頭の中が、ふわっと軽くなる感じがした。

活字はアウトプットの燃料

「ビジュアルの無い活字から得たイメージをインプットして、ビジュアルとしてアウトプットしていますね」と話す杉戸さん。
活版印刷や手描き染めのデザインは、活字から得た情報を形にしているという。

「今は環世界に興味があります。生物によってみえる世界が異なるので、そういった視点をビジュアルにしていきたいですね」。

杉戸さんの作品をみる時には、インプットした活字のイメージや、どの生物の視点でみたものなのかを想像して鑑賞するのも楽しそうだ。

好きなラジオはTBSラジオ、好きな映画はセリフも覚えている『フルメタル・ジャケット』などなど、私はかなり杉戸さんへ歩み寄れた気がする。

今回の取材記事を元に、もう一度杉戸さんのコラムを読むともっとおもしろいはず!
今後の活動はもちろん、次回のコラムもエッジの効いたものを期待しています。

■Ladybird Studio今月のコラムはこちら

https://goon-type.net/ladybird-studio/2021/06/allergies/

Creator

Ladybird Studio 杉戸岳

Ladybird Studio主宰。活版印刷工房のLadybird Pressを運営するかたわら、手描き染め工房BLOSSOM・お値段以上の写真とデザインをお届けするカササギ写真&オナガ図案、などを今後展開していく予定。