Column

「日曜にライブみに来てわざわざお金払って笑うって、お前らひまだよな絶対」
(マシンガンズの漫才より)

ボンジュール古本

前口上
新宿駅西口地下にあったメトロ食堂街がなくなってしまった。
JR新宿駅から直結の飲食店街だが、再開発に伴い2020年9月閉店した。(数店舗はまだ営業中らしい:2021年6月現在)
お笑いのライブをみに新宿へ行くことが多く、夜にライブが終わった後よく立ち寄っていたため、閉店のニュースは驚いたしショックだった。

「食堂街がなくなったら、私はライブ後に、どこへ立ち寄ればいいのか…」

勝手を申すと、便利に立ち寄れる場所がなくなったという困惑の方が大きかった。場所柄、立ち寄る飲食店など山ほどある。ありすぎるために、どこに入ろうか迷ってしまう。
私は『選べる自由』に捕らわれている。いいかげん、選ばない自由に降伏しろ。

ビルデイングとかビルヂングとか地下名店街とか

夜、新宿駅周辺の飲食店はたいてい混んでいる。こっちの都合を言えば、地元へ向かう早い終電に間に合うよう電車に乗らなければならないので、食事はさっと済ませたいのだ。
ふらっと立ち寄れる店の条件として、メトロ食堂街は全てクリアしていた。

○軽めに食事をしたい→食事だけ、もしくは1杯だけ呑みたい時の、便利だったメトロ食堂街
○女性1人でも入りやすい→どんな客でも人数でも受け入れてくれる、安心だったメトロ食堂街
○何か食べたいけど決まらない→目的がなくても徘徊したくなる、素敵だったメトロ食堂街

そばを食べたい時は永坂更科の立ち食いスペースに寄り、天ぷらつな八のカウンターに人が少ない時は「ラッキー!」と天丼を食べた。食後に肉の万世の前を通るとお土産用のカツサンドが半額になっていて「家に着いたらお腹が空くかもしれない」と買ったこともあった。結局それは家に着く前に食べてしまった。

中でも度々寄ったのは、タカノフルーツパーラー西口店だった。こじんまりとした広さで、寄る時間帯のせいかお客さんも少なかった。対照的に駅前本店はどの時間帯でも大抵人が並んでおり、4人掛けのテーブルに1人で座るのは、この図々しい私でさえ少々気が引けたし、来店客は女性数名・アベック・家族がほとんどだった。

「ライブをみて楽しんだ後に、大変美味しいパフェを頂く」

こんなにささやかな事が、今ではまるで贅沢な事のようだ。この緊急事態宣言の状況下のせいもあるものの、そもそも好きな事をした後に美味しい物を食べる行動が、一大イベントなのだ。

『ささやか』を甘くみていた。気楽に劇場へ行けない今、思い出すとあんなに楽しみにしていたのだから。元々パフェを好んで食べる事なんて今までなかった。

桃栗三年、パフェ百年

一昨昨年、新宿の大久保公園で開催していた『激辛グルメ祭り』に立ち寄った。ライブ後の夏の午後カンカン照りの下、1人で激辛の麻婆豆腐を食べたが、これが想像以上に辛く、そして美味しかった。口の中がヒーハーしているまま、暑さで陽炎の立ちのぼる歌舞伎町を歩き、普段ならみかけてもスルーしていたフルーツパーラーの看板が目にとまった。

「冷たくて甘い物を…」とふらふらと吸い寄せられ、そこで初めて「桃のパフェ」を頂いた。瑞々しくジューシーで最高の状態の桃、軽めのソフトクリーム、桃のフレーバーのグラニテとシャーベットがクリームと層を重ね合わせていて、品があった。甘さと軽さでできている、優しい印象画のようなパフェであった。

辛い物を食べた後だし、美味しく感じられるのは当然だと思われそうだが、そのことを大目にみても、その後何度も頂くことになる桃のパフェの美味な記憶がぶれることはなかった。

それ以来このパーラーによく立ち寄るようになり、季節ごとのシーズナルメニューをその都度食べた。さらにはパフェそのものに反応するようになり、パティスリーのクリスマス時期限定のパフェや、ショコラティエの特別なパフェ、デニーズの旬のパフェも楽しみに食べるようになった。

どれを頂いても、個性やポイントがあり、背の高いパフェグラスに詰めてあるアイテムや、食べて欲しい順番がお店のメッセージとして伝わるようなパフェばかりだった。ゆっくり頂いていると溶けてきて、全て混ざってくるので(これはこれで美味しいのだが)できるだけ層を保ったまま頂くことを心掛けた。

パフェを食べる時には集中力が必要なのだ。

その年の秋のライブ後、食堂街のフルーツパーラーに寄り『栗のパフェ』を頂いた。よく「栗に目がない人」が一定数存在するが、私はそうでもない方なので、飛びつきはしないものの、旬のものを頂く儀式のようにオーダーした。

栗といえば思い出す方がいる。前に何度か伺ったフレンチレストランの支配人(おそらく60代)が書いているブログがあり、たまにのぞく。ワインに大変詳しくていらっしゃるが本人は全くの下戸であり、甘い物が大好きで、特に栗関連には目がないのだそうだ。文章もしっかりボケをかましておられ、今も文章内に(爆)を使用している。

これで笑いをとれるのは今現在この支配人だけなのではないか?
いつか使ってみたいと思っている。

私だって、フードエッセイスト平野紗季子さんみたいな文章を書きたい

栗のパフェはカラメルのゼリー、ソフトクリーム、カスタードクリーム、バニラとマロンアイスが重なり、頂上に鎮座ましますのは栗の甘露煮と渋皮煮が各3粒ずつ。マロンクリームがたっぷりと佇み、栗がこんなに美味しそうに装飾されている姿を初めてみた。

しっかりと栗らしい甘さを感じられ、カスタードクリームにほろ苦いカラメルのカリカリした食感が良いアクセントとなり、ギリ飽きずに食べ終えた。大変美味で贅沢な上に『甘い物を食べた感』もかなり満たされた一品だった。

ただ、最後に食べようと残しておいた大粒の栗2粒がどうしても食べ切れなかった。栗のパフェを頼んでおいて栗を残すのは愚行と思われた為、それを紙に包み、ポケットに入れた。

帰宅途中の電車内で持参した文庫本も読み終わってしまい、何気なく窓の外をみながらポケットに手を入れたら先ほどの栗があった。ちょうどお菓子を持っていなかったので、口の中へ放り込んだ。ついさっき甘い物はしばらくいらないと思ったことが嘘のように、美味しい栗だった。

以前読んだ劇作家松尾スズキのエッセイに『寿司店で食べきれず、目の前の大将や一緒に行った知人に気を使い、食べるふりをしてポケットに入れた』というエピソードがあった。

きっと誰しも何らかの事情があって、その時食べ切れなかった物をポケットに入れた経験があるかと思う。

…ないですか。そうですか(爆)