今回のコラムはちょっとだけ趣向を変えてBEDROOM RECORDSの2人が愛するバンド、My Bloody Valentine(通称マイブラ)の発売から30周年となった、今なお語り継がれる名盤『Loveless』を存分に語り尽くしたいと思う。
はじめに、この『GO ON 轟音』で元祖轟音と語り継がれているマイブラのコラムを書かない訳にはいかない。『GO ON』で連載している以上はマイブラを語るのが必然的だろう。そんなバンドがつくり上げた91年発売の、今も色褪せる事のない名盤『Loveless』について、各々の思いを綴りたい。
contents
『Loveless』は僕の人生(神田ガク)
僕は91年に生まれて今年で30歳を迎えた。早かったような遅かったような、のらりくらりと30年が経った。その間に色んな音楽にも出会ってきた。12歳の頃から音楽に目覚め、パンクからガレージ、ハードロックからテクノ、環境音楽からアンビエント、様々な音楽に出会いそしてインディーのアーティストに強い影響を受け、多くの楽曲を好きになった。
その中でも、マイブラは僕の中で特別なバンドになった。
初めて聴いた時のことを今でも覚えている。
19歳の頃、某音楽雑誌のTOP名盤500!的な雑誌を読み漁っていた。サブスクなども無い時代だったので、気になったアルバムはバイトで稼いだお金で買いまくっていた。当然、ハズレも多く苦い思いも星の数ほどある。
そんな中でピンクと赤が混ざったような淡い色、ぼんやりと写るギターのジャケットに目を奪われた。タイトルは『Loveless』。どうやらセカンドアルバムのようだ。当時はCDで安価だったため買ってみた。家に帰りCDコンポにセットして再生ボタンを押した。
その瞬間、そうあの瞬間、僕の今までの音楽人生で経験もしたことのない衝撃が走った!背筋がゾクっとしてから、胸の中が鼓動で掻き乱れスピーカーが壊れてしまうのではないかというほどの轟音。そして安アパートだったため、隣の住人が怒ってくるのではないかという恐怖心も相まって、なんともカオスな瞬間が僕を襲った。
1曲目のタイトルは『Only Shallow』。
まさに轟音なギターと叩きつけるドラム、そして甘美でドリーミーなボーカルは今までに体験したことのないサイケデリックな世界で、僕は心酔した。 それからというもの出会ってから半年くらいは、ほぼ毎日このアルバムを繰り返し聴いていた。『Loveless』はなんとも不思議なアルバムだ。30年経った今でも聴く度に新鮮な気持ちになる。
他には無いオリジナリティがあるのだ。 それはきっと、天才ケヴィン・シールズのミックスの手法によるものだと思う。マイブラは4人組のバンドだが、この『Loveless』はフロントマンのケヴィン・シールズがほぼ1人で製作した。 一切の妥協を許さず、納得いくまでこだわり抜いた音は他に類を見ないほど美しく、それはもはや職人の域に達しているほどだ。
そのためマイブラは35年ぐらい活動しているバンドだが、アルバムは僅か3枚しか出していない。自分の納得したもの、完璧なものしかリリースしない姿勢は本当にカッコいい。 僕も彼のそんな物づくりの姿勢にかなり影響を受け、リスペクトしている。
本当はマイブラだけで1つのコラムを書きたいほどだが、それはまた今度にしよう…。
掴めそうで掴めない『Loveless』(大川ユウキ)
最近話題になっていた『Loveless』のLP再販。瞬く間に完売したらしいが、なぜこのアルバムに人々が魅了されるのだろうか。
初めてこのアルバムを聴いた時、僕は大学生だった。様々な音楽を吸収している最中で、本や音楽サイトで紹介されていたこのアルバムの「音の洪水」というキャッチコピーに興味深々だった。そして聴いた瞬間、全てを理解した。歪んだフィードバックギターが鳴り響き、聴いている自分を置いてきぼりに曲が次々と進む、まさに「音の洪水」。
聴き終わってすぐヤバい盤だという事は分かったが、具体的に何が良いのかは理解できなかった。繰り返し聴いてもなかなか実体が掴めないこのアルバムを、淡々と聴く日々が始まる。
家のスピーカーや車の運転中、はたまた電車の中でイヤホンで聴くが、どの情景にも合っているようで合っていない。この感覚は、今まで聴いてきたバンドとは明らかに違う。
そこから他のシューゲイザーバンドも山ほど聴いたが、マイブラの『Loveless』だけは明らかに異質で、他を知れば知るほど『Loveless』の本質的な良さが何なのかを理解することができた。
このアルバムの音像全てを作り上げたリーダーのケヴィン・シールズの異常なまでの音への拘り、それに導かれたかのようなビリンダ・ブッチャーの歌声が『Loveless』という1枚のアルバムで溶け合い、この不思議で高揚感のある音をつくり出しているのだろう。
『Loveless』というアルバムの力は未知数で、聴けば聴くほどその沼にハマってしまい抜け出せない。このアルバムの影を追って違う音楽を探すが、この孤高の名盤『Loveless』に匹敵する盤を見つけるのは難しいだろう。僕のように『Loveless』の沼から抜け出せない人がいるのも納得だ。
最後に『Loveless』から、特に大好きな3曲を選ばせてもらおう。
『To Here Knows When』
まるでぶっ壊れたVHSからループするように、ノイズとサイケデリックな音像が万華鏡のように繰り返される。ドリーミーなボーカルが、どこか違う場所に連れて行ってしまうようなそんな曲。聴くたびに白昼夢にいるかのように、幻想的な世界へと誘ってくれる。
『I Only Said』
とてつもなくクールでカッコいい曲。 捻れたギターとタイトなドラムが最高!アルバムの中でも比較的高揚感を得る楽曲。
『Soon』
あのブライアン・イーノが絶賛した曲。 何度聴いても美しい。 僕らにとっての永遠の名曲。