過去10年にわたって音楽の形は変わっていった。CDの売り上げは減少し、ネットによる配信が音楽マーケットの主軸となった昨今の音楽シーン。そんな中でもレコードという音楽パッケージは今尚古びず、多彩な変化を見せている。それはアートワークというアーティストとレーベルが創り出したひとつの音楽の形であり、様々な事を読み解く、または想像する事のできるひとつのイマジネーションだからだ。
『ジャケットを見ただけで音を感じる』。
今回はそんなBEDROOM RECORDSの2人が、好きなレコードジャケットを語り尽くすという企画の第1弾だ。(対談:BEDROOM RECORDS神田ガク、大川ユウキ)
神田「俺、今日テーマがあってさ見て分かると思うんだけど顔面ジャケをセレクトしたんだよね」
大川「おお、良いね。本当に全部顔面じゃん(笑)」
神田「1枚目は、顔面ジャケの代表的な1枚の、ポール・マッカートニーのMcCartney IIだね」
大川「これは代表的だよね」
神田「なんかさ、このポールのなんとも言えない表情が良いんだよな」
大川「確かに。驚いてるんだか、とぼけてるんだか分からない感じが良いよね!」
神田「それで、これが80年にリリースされたポールのソロでの3作目かな。この作品はポールのファンク色全開のアルバムで内容も最高なんだよ!」
大川「これ80年リリースなんだ!凄いね!かなりブラックミュージックよりにはなったよね」
神田「70年代から80年代にかけてさブラックミュージックやモータウンなどが全盛期な頃で、ロックが少しだけ下火になっていた時期でもある。だからポールもかなりR&Bやディスコに影響を受けたのだと思う」
大川「1曲目のComing Upなんてモロだもんな」
神田「黒人シンガーもバックコーラスしてるからもうディスコだよね!」
大川「もうファンキーだもんな(笑)」
神田「これはオススメの1枚だね!ポールの作品の中でも1番好きな作品だな」
大川「じゃあ次は俺だな。俺はね、」
神田「ちょっと凄いラインナップじゃん(笑)!なんか偏ってない?(笑)」
大川「ロックがなんいだよ(笑)。ブラックミュージック寄りだな。どうしよっかな、ガクがそういくならこれにしよ!」
神田「おっ!良いねぇ」
大川「ハービー・ハンコックのHead Hunters。これまで、それこそゴリゴリのジャズミュージシャンでマイルス・デイヴィスなんかとも一緒にやってきた人なんだけど。そんなハービーが一番最初に出したファンクアルバムだね」
神田「かなり変わったよね、ここから」
大川「うん。めっちゃファンキーになったね!中にはジャズっぽい曲も入ってるんだけど面白いのが、メインのハービーが変なキャラクターになってるっていう(笑)」
神田「それ凄いよね(笑)ダフト・パンクの走りだよ!」
大川「それでこのジャケットに一緒に写ってるヘッド・ハンターズって有名なバックバンドなんだけど、この人達だけで作ったアルバムもあるくらい有名なバックバンドを起用してるの」
神田「へー、そうなんだ」
大川「それで肝心のジャケットなんだけど、この配色ヤバくない(笑)?」
神田「紫っていう配色ね。文字の書体も良いよね」
大川「一見ジャズアルバムに見えないもんな。そこが良いんだけどね。ハービーはこの後の作品もずっとファンク路線でいくんだけど、最後の方はディスコっぽいサウンドになっていく」
神田「そうなんだぁ。ちゃんと流行りものに乗っかっていくんだね」
大川「だから世間からはめちゃくちゃ叩かれたんだよ。売れ線にいったから。でも散々叩かれた後にソロのコンサートをやったんだけど、それで圧倒的なライブをやって一撃でみんなを黙らせるっていう」
神田「それだけ凄かったんだ!カッコ良いなぁ」
大川「じゃあ次お願いしますよ」
神田「2枚目はね顔面ジャケの金字塔、Aphex TwinのRichard D Jamesです」
大川「おお〜!」
神田「自分の名前をタイトルにしたエイフェックス・ツインの1番有名で1番傑作なアルバムだね。インパクトのあるジャケットって何かなぁ?って考えた時にやっぱりこれが1番最初に思い浮かぶ」
大川「これは名盤!」
神田「これさ、子ども泣くぜ?こんな顔したジャケット、もはや狂気だよ」
大川「これは、子どもが言うこと聞かない時に使えるよ(笑)」
神田「もうストーカーみたいな顔してるもんな。道歩いてて振り返ってこの顔があったら失禁するぜ?」
大川「ははは!もう国籍も分からないもんな(笑)」
神田「でも、こんな狂気的なジャケットでも内容はどこまでも美しい」
大川「確かに内容はいいね!」
神田「本当にジャケットとは裏腹に泣かせるアルバムでもあるんだよ。1曲目は「4」で始まってアンビエントで美しいビート、浮遊感のあるサウンドが、今ではクラシック化した名曲の1つだね。エイフェックス・ツインといえば強烈なドラムンベースで変幻自在な畳み掛けるような楽曲が多いんだけど、このアルバムは比較的、テンポを落としてメロディ重視な楽曲ばかりだからききやすい」
大川「ハウス、テクノ系に興味がある人だったら入門編で全然良いよね!」
神田「そうだね!だけどジャケットには気をつけて!こんなの部屋に飾ってたら彼女にフられるぜ!女の子も、もし買ってしまったら飾らずに部屋の奥にしまっておこう。誰もいなくなってから1人の部屋でじっくりきくのがオススメだから」
大川「ワープ・レコーズの代表作でもあるから、是非きいてほしいよね。顔面ジャケット入門編としてもいいチョイス!」
神田「次、ユウキは何?」
大川「ガクがそれいったら、俺はこれいくよ」
神田「きたよ(笑)」
大川「俺も、アルバムではないんだけどシングルでAphex TwinのWindowlicker」
神田「これも凄いよね」
大川「こんなの本当にイカれているじゃん。でもこんなジャケットでも許されてしまうリチャードが凄いよな」
神田「これこそ狂気だろ。曲もぶっ飛んでるしね!」
大川「これさ、なんかビールの広告みたいな感じじゃない?」
神田「確かに(笑)!ビキニを着た巨乳のおねーちゃんが綺麗な青空のもとポーズとってるみたいなさ、それで顔面がリチャードっていう。こんなの元祖アイコラじゃん!」
大川「まぁ、これはただただ好きってだけ!曲もぶっ飛んでるし、PVもカッコ良いから是非みて欲しいね」
神田「なるほどね!俺は次はね、ThundercatのDrunk!」
大川「これもね。最高!」
神田「これは10年代を代表する作品になった。リリースが17年なんだけど、今ではもう金字塔的作品になってる」
大川「当時、出た時もすぐに話題になったし評価も高かった。その年の年間ベストアルバムも、軒並み1位だったね。音楽好きはみんなきいた」
神田「そうだね。ブラックミュージック好きもそうだし、インディー、AOR好きもハマる1枚だよね。この1枚でいろんな要素の音楽が入ってる。飽きがこない1枚だね」
大川「色んなアーティストとコラボしてるしね。しかもこのインパクトのあるジャケットね(笑)」
神田「10年代を代表する顔面ジャケットだよね!アマゾンに住んでる先住民族が獲物を狙ってるみたいなさ」
大川「なんだかもうよく分からないもんな、メッセージ性があるのかないのか」
神田「俺さこれの裏面も好きなだよね。この水の中に潜ってて、溺れてるんだか死んでるんだかよく分からない、この浮遊感漂うこの感じ(笑)」
大川「裏いいよね。俺も好きだわ」
神田「ファッションカルチャーにも影響を与えた人だね!この人自身もいつも凄いファッションしてる」
大川「この人がもう1つのカルチャーをつくったよな。まだきいてない人は是非!」
神田「大川君の次は?」
大川「次は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのFresh」
神田「このアルバムは、音楽をきいたことが無くても、ジャケットだけなら一度は目にしたことがあるんじゃないかな?」
大川「そうだね!もう何がいいって、スライがライダーキックしてるのがいいじゃん。で、タイトルがフレッシュだぜ?こんな煌びやかな衣装で」
神田「もう音楽の中身を知らなくても最高だね」
大川「これが、スライの中でも1番ききやすいアルバムなんだよな。2曲目のIf You Want Me to Stayは特にベースラインが最強と言われている」
神田「そうなんだ!」
大川「展開が異常なんだよね。ベースライン史上1番狂ってるんじゃないかと言われているらしいんだよね。スライ自身もマルチプレーヤーだから色んな事ができるし。しかも、かのマイルス・デイヴィスすらも惚れ込んだと言われてる」
神田「へー!凄いね!初めてきいた!あのマイルスが惚れ込むとは凄いな!」
大川「これはジャケットもいいし内容もききやすいからオススメ」
神田「そうかぁ、んじゃ次はね、、、」
大川「来ましたよ。もうタイムリーだな」
神田「Madvillainです。ビートメイカーのマッドリブとラッパーのMF DOOMとのコラボアルバムなんだけど2021年、年明け早々にラッパーのMF DOOMが死去したというニュースが入って来て、かなりショックでね」
大川「ビックリしたよな本当に、、、」
神田「MF DOOMはアンダーグラウンドヒップホップ界ではカリスマで、マーベルコミックに出てくるDr. DOOMからインスパイアされてお面を被って活動してて、かたやマッドリブはプロデューサー、ビートメイカーとして西海岸ヒップホップを牽引してた人物で、そんな2人のコラボ作品」
大川「ストーンズ・スロウからリリースされたしね」
神田「これリリースが04年なんだけど、早すぎたと思うね。今ではローファイヒップホップとか、チルなんちゃらみたいなサウンドが流行ってるけど、この作品はほんとにその走りだった。マッドリブのローファイビーツなサウンドと、MF DOOMの無機質だけどメロディに乗ったラップが心地いいんだよ」
大川「マッドリブのつくるビートがとにかく最高なんだよな。MF DOOMもローなラップでカッコいい」
神田「フライング・ロータスはこの2人を敬愛してるんだけど、MF DOOMが死去して追悼していたんだけど、このMadvillainのアルバムをTwitterに載せててさ、『ヒップホップで必要なレコードはこれだけ』ってコメントしてて本当にそうだなって思った」
大川「ヒップホップの全てが凝縮されてるよな」
神田「そしてこのクールな顔面ジャケットか最高にカッコ良い!この角にオレンジが入ってるのがまたいいよね」
大川「それがエッジ効いてるんだよな。こんだけ全体がモノトーンに対して、ワンポイントがオレンジってのがずるい」
神田「めちゃくちゃオシャレだよね。目がとろ〜んとした感じもカッコ良い」
大川「このジャケットの写真を撮ったのが有名な写真家らしんだけど、最初MF DOOMが許さないんじゃないかって言われていたんだよ」
神田「え?なんで?」
大川「MF DOOMって元々、写真を嫌がる人で今まではコミックみたいな絵ばかり使ってたんだよね」
神田「確かにソロとかの作品はどれもアニメやコミックみたいなジャケットばかりだったよね」
大川「この写真家が撮った写真をみたMF DOOMが気に入って、それでジャケットに採用されたっていう」
神田「へー!そんな裏話があったんだ!全然知らなかった」
大川「MF DOOMが唯一気に入った写真なんだよ。だからこんなにカッコイイジャケットが生まれたんだよ」
神田「なるほどなぁ。これは面白いジャケット裏話だなぁ。ユウキの次でラストかな」
大川「ガクがそう来たらこれでいくしかないでしょ。ストーンズ・スロウ繋がりで」
神田「やっぱりな(笑)」
大川「マッドリブのソロでやっているQuasimotoっていう別名義でやってるプロジェクト」
神田「これ俺も欲しいんだよなぁ」
大川「ちなみにこのカジモトのキャラクターはイノシシなんだよ。それもいいじゃん!」
神田「なんでイノシシなんだろ(笑)?」
大川「マッドリブがラップもやっているんだけど、全部にエフェクトを変えて声を変えてるんだよね」
神田「それが凄いし面白いよね」
大川「わけわからないけど良いんだよね。CD版だとインストも入っててそれも良いよ」
神田「ジャケットも可愛くて良いよね。部屋に飾ってても、ちょっとオシャレな感じなんじゃないの?」
大川「この絵はDJが描いてるらしんだよね。これもヘタウマな感じで良い。基本的にストーンズ・スロウからリリースされてるアルバムは内容はもちろんジャケットも間違いない」
神田「今日はまだ全部語り尽くしてないけど、とりあえずここまで。色々と紹介して語ってきたけど、やっぱり1番は自分の足でレコード屋さんに行くことだよね。確かに今のご時世、レコ屋に行くってことが少なくなってしまったけどさ、やっぱりちょっとでも足を運んで欲しいな」
大川「うん。みるだけでも楽しいしね」
神田「音楽の内容とかは分からなくてもいいんだよ。このジャケットカッコ良いな、で買うのも全然アリだし、俺たちもそうしてきたしね」
大川「ジャケ買いって言葉があるみたいに、気になったら買ってみたり、きいてみるのもありだね」
神田「サブスク全盛で、音楽もどんどんネットできくことが多くなってしまった世の中だけど、俺はどうもサブスクとかで音楽きいても、頭に入ってこないんだよなぁ。音楽ってやっぱりただきくだけじゃなくて、物があってライナーノーツと歌詞をみながら音楽をきくのが、本当の音楽って感じがするんだよなぁ。それが何よりも楽しいし、至福の時間」
大川「人間、やっぱり手に取ったものじゃないと頭に入ってこないよな」
神田「レコードプレーヤーとか持ってなくてもいいんだよ。ただカッコ良いなこのジャケット、部屋に飾りたいな、で持ってるだけでもいいんだよ。それも音楽の1つの形だと思うな。だからジャケットアートワークってものが昔から存在しているし」
大川「ただ持ってるってだけで嬉しかったもんな。レコ屋行って探すのとか楽しいもん」
神田「そうそう、何よりレコ屋行って適当にみてるのも楽しいんだよ。探していたものがあった喜びとかもね」
大川「サブスクばっかになっちゃうけど、形として持っているのは、ずっと残るからね。サブスクがダメって言ってるわけじゃないんだけど、物として残すのが音楽のいい形なんじゃないかな」
神田「そうだね。レコードでまだ新譜が出るってことはそういうことだしね!おっと!まだ時間あるじゃん!それじゃレコ屋巡りにでも行きますか?」