Column

振り返れば恋

GO ON編集人

平衡感覚を失いつつ

散りゆく桜を見ていると鈴木清順の映画を思い出す。

『陽炎座』満開の桜と松田優作、『ツィゴイネルワイゼン』桜の花びらが舞う中で電話をする大楠道代と藤田敏八、未見だが『春桜 ジャパネスク』も。『ピストルオペラ』も桜が吹雪いていたような。桜を見つつ脳内でEGO-WRAPPIN’『サイコアナルシス』が流れる。

<俺は素面だ酔ってるのは路面>
<遠のいてく意識>
(EGO-WRAPPIN’『サイコアナルシス』)

意識は遠のくためにあり
終電は逃すためにあり
パーティーは抜け出すためにある
(GO ON編集人 牧田幸恵)

春は人を狂わせる。今年の春は、より一層、そう感じる。

青地「君、気は確かかね」
中砂「狂ってるよ」
中砂「今更それはねえだろう。生まれてから一度だって俺はマトモだったことはねえよ。それを承知でお前さんだって付き合ってたんだろうが、え?」
(アートシアター144号より抜粋)

映画『ツィゴイネルワイゼン』で中砂(原田芳雄)が青地(藤田敏八)に言うセリフだ。今月は、このセリフをまんま読者に送りたい。

いつだって恋は愚か

3月のメモ帳やツイートを読み返していたら私の脳内は大変忙しく、かつイカれていた。私は思う。この愚かさは全て恋の仕業だと。

「2時間も電話をしてました。映画と同じ時間ですよ。これは恋でしょうか?」(20代女性)

まごうことなき恋。である。

3/19
ピアノの上に乗る女について考える。例えば、バイクにまたがる女を体育会系とするのであれば、ピアノに乗る女は文系なのだろうか。

3/20
昔のカセットテープに入ってたJ-PHONEのラジオCMがとても良くてディグってたら、クソヤバい永瀬正敏見つけた。「出ろよ」「出なくていいよ」。もうメールやめて電話にするね。

3/22
ラジオから流れたガーシュウィン。そこから思い出した我修院達也、からの『茶の味』。春、春、脳内が春。

3/26
映画『ユリイカ』鑑賞。青山真治監督作品を観るのは初めてだ。
「生きろとは言わん ばってん 死なんでくれ」
「お前の目を通して海を見せてくれ」
素晴らしいセリフの数々を、帰りの車の中で反芻した。

3/29
聴き逃しで聴いたけど(NHK FMクラシックカフェ)、サラサーテの盤が聴きたくて。鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』を観たくなるね。

3/30
脳内が鈴木清順の世界になってるから、これは三途の川だと思ってる。

3/31
なぜ、映画『別れる決心』に惹かれたのだろうか?と考えていたら、パク・チャヌク監督のことを<韓国の鈴木清順>と書いてる人がいた。新たな気づきに朝からうれしい。

4/1
母娘監禁雌

4/2
「Ars longa, vita brevis」(芸術は長く、人生は短し)
「人の命は短いが、優れた芸術作品は死後も後世に残る」ということわざだ。(坂本龍一訃報の記事より抜粋)

皆が気になるであろう4/1。一体何があったのか。

沼津は異界の入り口だった

4/1〜2にかけて静岡県沼津市へ行った。

書肆ハニカム堂で沼津発コラム型ミニコミ誌『月刊イヌ時代』を全号買うことと、スナックへ行くことが目的だ。

沼津駅で立ち食いそばを食べ、駅弁を買い片浜駅へ。2回目の訪問なので、ナビは使わず書肆ハニカム堂へ向かう。そして私は本屋で本ワサビをすりおろしながら駅弁を食べ、店主と談笑した。その後、海へ向かい珍しい石やゴミを探した。黒い塊が動いたのでギョッとして目を凝らすと人だった。

夜はハニカム堂店主とイヌ時代編集長と一緒に、お酒を飲んでスナックで歌った。スナックではお茶割りしか出てこなかった。

本来の目的は、お酒を飲みながら雑談している様子を録音して記事にしたかったが、イヌ時代編集長の顔面ばかりに気を取られ、話はほとんど頭に入らず。さらにハニカム堂店主のチョイスするカラオケの曲に脳内は麻痺状態。何も録音することはできず、ただただお茶のようなお茶割りを飲んでいた。ホテルに帰り「魚鳥木のカレー食べたかったな」とアイスを齧りながら次は友人を誘おうと夢想し、化粧を落とす気力もなく寝てしまった。

翌朝、私は船着場にいた。渡し舟に乗り我入道へ。

船に揺られながら「昨夜会った2人は生きていたのか死んでいたのか、もしかして死んでいるのは私なのか。狩野川は境目かもしれない。そうか沼津は異界の入り口…」とぼんやり考えていた。

意識は遠のくためにあり
終電は逃すためにあり
パーティーは抜け出すためにある
(GO ON編集人 牧田幸恵)

「抜け出さねえよwww狂ってんのか!」

イヌ時代編集長の怒号で我に返り、白紙の原稿に手をつけた。それが今。

iPhoneのメモに残された「母娘監禁雌」(正しくは『母娘監禁 牝』)をググり、ハニカム堂店主の趣味を知りたくなった。次回会う時には映画の感想を伝えたいし、なんとか雑談を録音したい。また会いましょう。

【予告】
近日発行する轟音紙版第4号に、米粒沼津旅日記と沼津で撮影したチェキ(数量限定)をおまけにする予定。お楽しみに!

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。