前回書いた熊の傷を癒やしてくれた、Yusuke Okadaという男について。
まずは岡田さんがギターボーカルを務めていたBLOTTOというバンドから。思えばBLOTTOとの出会いも岡田さんのアートワークだった。2006年、FOUR TOMORROWとDERANGEMENTSという2つのパンクバンドが各2曲収録のスプリットCDをリリースした。そのジャケットのアートワークを岡田さんが担当していたのだ。
確かそのレコ発イベントにBLOTTOが飛び入りで出演していて初めて見たのだと思う。当時Snuffy smileというアンダーグランドパンクの老舗レーベルの顔的なバンドだったBLOTTOは国内、海外問わず様々なアンダーグラウンドシーンと繋がっており、数々のスプリット音源を残している。
2007年、高校を卒業し群馬県の工場で働き始めた私は、国内/海外のアンダーグラウンドなパンク/ハードコアの新譜を多く扱う高円寺のレコードショップ『BASE』の入荷情報を仕事の休憩中に隈なくチェックし、めぼしいレコードは即取り置き、1万円を超えた時点で発送(1万円で送料無料だった)してもらう、といったことを生き甲斐にしていた。
もう1つの生き甲斐は、休日に電車に乗り都内へ赴き、レコード屋やライブハウスに通い詰めることだった。たまにある海外のパンクバンドによるDIYなツアーも見逃せなかった。
ツアーは行ける範囲では埼玉県熊谷市や都内近郊のライブハウスで行われていた。そのほとんどが平日に行われていたため、工場の終業時刻ぴったりにタイムカードを押し、アクセルベタ踏みで国道17号線をひた走り、ライブ会場へと急ぐのだった。
都内へ行く時は熊谷から高崎線に乗り向かう。駅の売店で缶ビールを買い、電車内で飲み干す。会場へ着き、ドリンクチケットを使いもう1杯。それから1バンドごとに1杯、と飲めない酒を無理矢理飲み続け最終的には泥酔して最終電車に飛び乗ることになる。そんな状態なので、終電を逃したり、乗れたとしても乗り過ごすことも日常茶飯事だった。大体翌日も仕事である。そんな時は漫画喫茶に行って始発を待ったり、時には辺りに何もなく改札前で野宿することもあった。タクシーに乗る選択肢はなかった。
側から見たらクソみたいな生活だったが、それでもなんだか不思議と楽しかった。
レコードを聴いている時と、ライブを観ている時だけは、工場でのクソみたいな日常から解放されて気分も晴れやかだった。まあ完全なる現実逃避なのだが、いつしかそれが自分の中で心の拠り所のようなものになってしまった。
そんなある日、訪れた杉並区方南町のスタジオで行われていたスタジオライブでのことだった。その日出る予定がなかったBLOTTOが飛び入りで数曲演奏した。不意の出来事でその時は「ラッキーだったなー」くらいにしか考えていなかったが、BLOTTOはその後行われたアメリカツアーにて解散となり、方南町でみたBLOTTOが私にとっての最後のライブになってしまったのだった。解散後しばらくしてリリースされたHARD SKINとのスプリット7inchも、Snuffy smileの型番100に相応しい素晴らしい内容で泣いた。
思えば初めて見たときも飛び入りだったし、毎回泥酔状態でしかみていなかった為記憶もまちまちだったが最後の方に見たライブは新曲がどれも溜め息が出る程かっこ良かったのだけは覚えている。
その後岡田さんは、SUSPICIOUS BEASTSを結成。メンバーはYOUR PEST BANDや THE URCHIN、THREE MINUTE MOVIE、BROWNTROUTなど西東京パンクオールスターといった豪華な布陣。かっこ良く無いわけがなかった。
が、ちょうどその頃から栃木県足利市周辺のバンドシーンも面白いことに気付き、東京へ行く機会もだんだん減ってしまっていた。
そうこうしているうちに2011年SUSPICIOUS BEASTSは1st LP『USED TO BE BEAUTIFUL』をリリースし、岡田さんは渡米してしまう。
このLPをリリースしたのがBLACK HOLEとDEBAUCH MOODという東京の2つのレーベルだった。
どうしても入荷したくて、知り合いを介してBLACK HOLEの主宰者である小坂さんを紹介してもらった。恐る恐る連絡してみると、割と歳が離れているのを感じさせない、びっくりするくらいフランクな方だった。それから小坂さんには何かとお世話になっている。去年残念ながら中止になってしまったSheer magの来日も、BLACK HOLE(小坂さん)招聘である。
それからはたまに帰国した際にライブを行い、レコーディングもしてしまうというスタイルで、2013年にはUS〜EUROツアー、ドイツのALIEN SNATCHというレーベルから2nd LP『NEVER BLOOM』をリリース。
2015年、同じくALIEN SNATCHより3rd LP『MIGHT DIE TOMORROW』と、新たにLOST BALLOONSというバンドでもLPを発表した。こちらはアメリカのガレージ/パンクバンドMARKED MENのメンバーJeffとのバンド。
2016年、トクマルシューゴの6枚目のアルバム『Toss』のアートワークを担当。
10年代のアンダーグラウンドシーンを牽引してきたといっても過言ではないであろうレーベル、Captured Tracksとのコラボでトートバッグを発売。
2017年、同レーベルから初の画集『I wish you were so ugly just like me』を7inch付きで発表。
T.V.NOT JANUARYの池田さんと合同展示会を東京にて開催。
LOST BALLOONSの2nd LP『HEY SUMMER』発表。
翌年2018年にはブルックリンのROUGH TRADE NYCにて個展開催。
2019年、HELMET UNDERGROUND & RIKOと合同展示会を足利にて開催。
ざっと渡米後の岡田さんのことを書いて見たが、凄すぎる経歴と最後の『足利にて開催』が結び付かなくて書いてて意味がわからなくなってしまった。
海の向こうという情報の少なさも相まって神格化してしまっているかもしれないが、私にとって岡田さんはただの憧れなのだ。
その岡田さんが自分の住む街にやってきて展示をし、モカでコーヒーを飲み、ふくやのパンをみんなで食べて、夜には美川やもっくもっくで酒を飲み、わ家に寝泊まりした。まさに夢のような時間だった。
これもBLOTTOを好きになって、BLACK HOLEに出会い、その流れでRIKOさんと繋がり、RIKOさんから岡田さんと合同で展示がしたいという話を頂くという、まあ細かくいうともっとたくさんあるのだが巡り巡って実現した展示だった。熊に襲われた際、携帯が壊れてしまい写真も全て消えてしまったが、今でも部屋に飾ってある岡田さんの絵を見るとその日のことや、10数年前の泥酔していた微かな記憶も蘇る。好きな事を信じてきてよかったと思える瞬間だった。
そんな私の心の拠り所、Yusuke Okadaについてでした。
ちなみにそんな岡田さんの画集や自身のバンドのレコード、ジャケットを担当したレコード等、多数扱っているので興味のある方はご一報ください。