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まえがきのようなもの
大学3年生の時、友人の市川くんとりょうじさんと山さんと雑誌を作ろうと僕が言い出して、『un un』という雑誌とも小冊子とも言えないレベルの紙を綴じただけのようなものを作った。特集は<今、クリスマスが熱い>。とても恥ずかしい思い出である。『un un』は、もしかしたらどこかのダンボールの中に今でも残っているかもしれないけれど、とりあえず今は手元にない。『un un』はクリスマスの特集をやったくらいなので、冬に作ったのだろうけれど、クリスマスをテーマにした雑文と、それぞれが音楽とか映画とかについて書いた文章で構成されていた。
僕の書いたクリスマスの文章は「クリスマス・ファンタジー」という名前の文章で、クリスマスっていうのはこういう感じだよねっていうことが書きたかったのだと思う。テキストデータがちゃんとパソコンの中に残っていたので、今回は、それをベースに、少し手を入れて特別編とすることにした。タイトルは「クリスマス・ファンタジー」では、いささか恥ずかしいので「クリスマス・ストーリー」と変えることにした。たいした話ではないので、きちんとしたクリスマス・ストーリーを読みたい方は、ポール・オースターの書いた『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を読んでもらいたい。
クリスマス・ストーリー
ー 少年
この物語の主人公はひとりの少年である。どこか雪のたくさん降る地域(おそらくはヨーロッパの山の方の地域)に住んでいる。家の中は暖かいのだが、外には雪が降り続いている(ちょうどクリスマスの日に降ったなどという生易しい雪ではなく、もうかれこれ1ヶ月ほど降り続いている)。短い昼の時間には、少年はスノーマンを作ったり、近くの友達と雪合戦をして遊んだりした。そして、日が暮れて暖かい家の中に戻る。
夕食に母親の作った熱々のシチューを食べ、(ちゃんと薪を燃やしている、もちろん煙突のあるしっかりとした)暖炉の前で母親の作ってくれたホットミルクを飲んでいる。音楽は何も流れていない。ただ暖炉の薪が燃えるパチパチという音と、外に降っている雪のシンシンという無音だけである。雪の降っている夜はとてもとても静かである。
少年は昼間遊んだことや明日、何をして遊ぼうかというようなことを考えている。そして、サンタクロースがちゃんと自分にプレゼントを届けてにやってくるか(どんなプレゼントだろう?)心配している。とても心配している。そんなことを考えていると、どこからともなく眠気がやってくる(とてもやさしく、あたたかく、幸せに満ちたイノセントな眠気である)。
少年はサンタクロースのことを考えながら暖かなベッドに入る。もちろん枕元には靴下がかけてある。少年はすぐに眠ってしまう。そして、ある夢を見る。とても奇妙な夢。
ー サンタクロース
サンタクロースは、クリスマスの日はとてもいそがしい。相棒のトナカイたちに橇をひかせて、子どもたちが目覚める朝までに、世界中の子どもたちにプレゼントを届けなければならないのである。夕方までにすべての準備を整え、トナカイたちと早めの夕食を食べ、出発である。
ある男の子の家に行く。その男の子は気持ちよさそうにぐっすりと眠り込んでいる。何か夢でも見ているようである。男の子の枕元にプレゼントを置き、そっとその子の家をあとにする。そして次の子の家に向かう。
サンタクロースは、すべての子どもたち(世界中には実にたくさんの子どもがいる)にプレゼントを届け、明け方にやっと自分の家に戻ってくる。毎年やっていることとはいえども、やっぱりかなり疲れる。相棒のトナカイたちも疲れ果てて眠り始めている。サンタクロースは暖炉の前でウィスキーを飲みながら、今年の子どもたちのことを思い出している。そんなことをしていると、やはり眠気がやってきてイスの上でうとうとしはじめてしまう。そしてそのまま眠ってしまう。
そしてある夢を見る。まるで…。
ー 少年
朝日が雪に反射した光で少年は目を覚ます。なんだか不思議な夢を見ていたような気がするのだが、どんな夢だったかは覚えていない。ただ、なんとなく幸せな気持ちだけが残っている。今日がクリスマスの日だったことを思い出して、慌てて枕元を確認すると、ちゃんと小さなプレゼントが置いてある。