ヘッド博士のCDについてる3Dメガネを嘲笑いながらポイっと放り投げ、捲し立てるように彼女は言った。
私ミニマリストになりたいんですよ。だから思い切って断捨離をしました。
まだCDとか本とかDVDとか買ってるんですか?私、もっとミニマルな暮らしがしたいんで、全部捨てましたよ。身も心も軽くなって、精神的にも身体的にも健康になった気がします。
必要なモノは全てネット上にありますしね。音楽なんてSpotifyとかでいいじゃないですか。荷物にならないし、どこにいても自由に好きな音楽が聞けますよ。
あー、もっとモノを減らしたいですよ。あなたも断捨離したら?モノ多すぎ。これも捨てましょうよ。
「この人の作品は、みたり、きいたりすることはできません」
最近、好きなアーティストの曲がプレイできないんだけど。
好きな作家の本が読めなくなった。検索しても出てこない。
監督の不祥事で、好きな映画がみれない。過去の作品も全部ダメ。
前述の彼女は、国から指定された音楽、映画、書籍しか鑑賞することができなくなった。それ以外を手にしたら罰金罰則だ。社会的地位にもかかわる。そして現物がないから、こっそり鑑賞することもできない。みんなと同じものを同じ目線で鑑賞する日々が淡々と続く。
こんな風に、もうすぐ好きなカルチャーを自由に鑑賞することができなくなる気配を感じる。
「正しい思想や行動、発言をしていない人がつくったものは、みちゃダメ、きいちゃダメです」
「正義こそ全てです!悪いものは排除していきましょう」
憲兵とか出てきそうな気配。我々は戦前、もはや戦中にいるのではないか。
「慎重に言葉を選んで発言せよ。地雷はどこにあるか分からない」
もうここは立派な戦場だ。
断捨離?ミニマリスト?
やめとけ。
今のうちに、大事なアーティストの作品は手元においとけ。
自由はすぐに奪われるから。
私は大丈夫。だってヘッド博士のCDもパーフリのVHSも持ってるから。でもレコードは持ってないから「もう聴かない」っていう人、譲ってください。捨てるならくれよ。規制されたら闇市でこっそり貸し出しして小銭を稼ぎます。
アカ上等。村八分上等。
何よりも鑑賞する自由を奪わないでほしい。そして自由を生かすも殺すも己次第。そんだけ!