Column

読書記録でたどるロードからトレイルへ

PEANUTS BAKERY laboratory

『ランナーズ』(2024年1月号)
付録のランナーズダイアリーが欲しいためについに専門誌に手を出した。とても便利。毎日の走行距離、体重、心拍数、睡眠時間等記録。偏頭痛日誌にもなっている。昨年、ハーフマラソンを完走後に当然次の目標に置いたのはフルマラソンレースへの参加。これまで好き勝手に走ってきたけれど、それで完走できるほど42.195キロはそんな生易しくはないと思う。

ランナーズダイアリー。主に筋肉痛の辛さ、食べてしまった間食や頭痛記録。読み返すと大したこと書いてない

『小出義雄のマラソンの強化書』小出義雄 
正月三が日、実家で箱根駅伝を観ながら小出監督の本をコタツの中でずっと読んでいた。シンプルで明快な語り口調の文章と実践しやすいメニューが何度読み返しても飽きることない。この本を教科書にして、毎月仕事の予定を手帳に埋めてから1ヶ月分の練習メニューを当てこんでいる。予定通りにそれを実行するだけ。雨の日は走らないので調整する。フルマラソンサブ4を達成する3カ月メニューの章を12カ月メニューに組み替えてこの1年はじっくりフルマラソンの練習に取り組む。初フルマラソン、めざせサブ4!

『最後の冒険家』石川直樹
年が明けた日に石川で大きな地震があり、それをきっかけに鬱々とした日々が長く続いた。そんな時に図書館で普段踏み込まない伝記コーナーをふらふらしていたら出会った本。夜中まで布団の中で貪り読んだ。何に対してかわからないが久々に胸がドキドキした。堀江謙一のマーメイド号の冒険記を読んだ際もこんな興奮を覚えていた小学生の自分がフラッシュバックした。

著者の石川さんの存在をこの本で初めて知る。ここから石川直樹さんの著作で手に入るものを片っ端から読み、YouTubeに上がっている動画も観た。非常に多作でこの資金を元手に世界の山に登り続けているのだと思う。タイミングよくヒマラヤの14座を撮影した写真展にも行けた。その日は能登の写真集を出した石川さんが、当時の能登半島を撮影した写真に田部井美奈さんがデザインしたポスターを会場で販売して、売り上げを義援金に充てる催しがあり石川さんも来場されていてサインをしてもらっている間、女子高生が憧れの先輩を前にした時のようにドキドキして何も話せなかった。

以下、読んだ著作の中で特に好きだった本。
・『この地球を受け継ぐ者へ: 人力地球縦断プロジェクトP2Pの全記録』
・『いま生きているという冒険』

『CHRONICLE クロニクル 山野井泰史 全記録』山野井泰史
『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』山野井泰史

アルパインクライマー(単独登攀者)の山野井さんのことは沢木耕太郎の『凍』を20代の頃に読み、当時から衝撃を受けてたまに読み返していたが勝手に大分年配者だろうと勘違いしていた(登山は中高年の人がやるものだと漠然と思っていた)。実際は私と10ちょっとしか離れていない、同時代に生きる挑戦者だった。手足の指を凍傷で失っても特にそれに重きを置かずに、自分が今ある状態で好きなことを今まで通り楽しもうとする気負いない姿にいつも励まされ活力を与えられる。こうありたいと思う。

『トレイルランニングを楽しむ: 自然の中を安全・快適に楽しく走るためのガイドブック』石川弘樹
フルマラソンの練習のために長い距離を走るようになり、休日にはいつもの競技場周回コースを飛び出して隣りの町、海辺だったり湖だったりへ繰り出すようになってきた頃。私の住む秦野盆地を抜けるにはどうしたって坂や山を超えて行くしかない。平らな道というのは秦野市にはあまりないのだ。自然と山を駆け上るようになり、あとからこれがトレイルランニングという名のついたスポーツなんだと知る。前述の石川直樹さんのような極所登山や山野井さんの岩登りといったものにも具体的に関心を持つようになるがちょっと自分で始めるには現実的ではない。トレイルランニングは今の自分にぴったりとはまり、ロードランから未知への新しい扉が開いたような気がしている。

図書館へ行くたびに、マラソン関連の本や選手の手記などを借りて読んでいたがその中に混じってこの本があった。トレイルランニングを日本に広め第一人者の石川さんのこのガイドブックは2008年の発刊だが今読んでも全く色褪せない。これからトレランを始める人には心強く最高のテキストになると思う。競技やレースというよりトレイルを楽しむ心や登山者への配慮、自然環境に対する取り組み等これまで読んできたランニングの本には全くない明るさとやさしさを感じる。今の私のスーパースター、石川弘樹さんはなんと秦野市に住んでいるようでいつか我らのホームマウンテン、弘法山で会えるのではないかなと期待している。

『植物生まれの気楽なおやつ』白崎裕子
長く製菓の現場で働いてきた私には、バターも卵も小麦粉も必須の材料でそれをわざわざ植物性食品に置き換えて作ろうとは考えたことが無かった。それぞれには代えの効かない魅力があることを知っている。お菓子は非日常のものであって生活に華やかな色彩をもたらすもの。一方、長距離ランニングやトレイルランニングに必要な補給食や行動食は、ある程度量も食べるし負荷がかかっている胃が受け付けてさらにパワーも授けなければいけない。そのために初めてこの本を参考に豆乳や寒天等を使ったシリアルやおからバーを作り実際に携えた。市販品はできれば使いたくない。

最後はこの本
『サバイバル登山家』服部文祥

サバイバル登山とは、装備や食料をできるだけ持ち込まず、自給自足で長期間山を歩く登山スタイルだ。(本文より)

なので狩猟や釣り、山菜摘みで食料を確保しなければならないので、鹿を追い捌いて食べる生々しい描写も出てくる。この部分は、私自身内面で一番揺れている問題なのだ。自分が生きるために生きているものを殺して食べる。このことについて服部さんも実践しながらたくさん感じ、考えている。机上の空論よりも真に迫っているようで噛み締めながらページをめくるが、やっぱり本では擬似体験しているだけなので、まっすぐ飲み込めない部分もある。服部さんが抱くこの世界への疑問や矛盾を少なくするために選んでいる生き方は、今後自分の生き方にも影響を与えていく予感もする。

2024年が始まりこ3カ月の間に読み、印象に残った本を時系列で並べてみた。アスファルトや人工チップの上だけではなく、土や落ち葉を踏み走るようになり関心が個人的、内面的な事柄から少しずつ自然と一体になって溶け込んでいくようなことへと変化してきているのが感じられる。山をフィールドとする人が書く文章は回りくどかったり、茶化したりしていない。淡々としていて熱く、クールで正直で非常に読みやすい。山の厳しい自然と本気で向き合うには偽りは不要で、自分を強くし、さらけ出すしかないと知っているからだと思う。

Creator

PEANUTS BAKERY laboratory 長谷川渚

1980年生まれ、神奈川県秦野市存住。パンを焼き、菓子をつくり、走る人。開業準備中。屋号は幼少期から常に傍らに居続けるSNOOPYのコミックのタイトル、及び秦野市を代表する名産物である落花生から。「laboratory=研究室」というと大袈裟な聞こえ方だけれど、かちっと決めてしまいたくない、常により良さを求めて試行錯誤する場所、自分でありたいという思いを込めて。