Column

勝手に妄想映画館 14

GO ON編集人

テクノロジーの変化と恋愛映画

10代の頃に泣きながらみたドラマ『東京ラブストーリー』の最終回。今でも泣くし、今でもさとみが嫌い。しかし、2000年代以降に生まれた人がみたらどう思うのだろう。「スマホがあればよくない?」で終わってしまうのだろうか。駅のホームに残されたルージュで書かれたであろう〈バイバイ カンチ〉のハンカチを思い出しながら、私は遠くを見つめた。

先日『男と女』を映画館でみた。1966年の作品だ。女が電報でメッセージを送り、それを受け取った男が車に乗って猛スピードで会いに行くシーンがある。その後「やっと会えたね」と抱き合うシーンがあるのだが、その2人をみてすごく幸せな気持ちになった。これ以上の「やっと会えたね」なんてないよね。しかし鑑賞後に物語を反芻しながら考えた。今の時代だと「スマホがあればよくない?」で終わってしまうのではないかと。

携帯電話の有無で恋愛の仕方が大きく変わったし、さらに言うとガラケーとスマホでも全然違う。変化した詳細は省くが、ドラマ『愛していると言ってくれ』は「スマホがあればよくない?」で完全に終わってしまう。

逆に、現代のテクノロジーを駆使した恋愛映画といえば『別れる決心』である。犯行の道具、翻訳アプリ、録音。スマホが無いと成立しない物語になっている。スマホでチャットをしている時、入力中に表示される「・・・」をみつめているシーンがあるのだが、離れているけれど「今、会話をしている」という時間の共有や返事を待つ楽しみが伝わる好きなシーンだ。これはテクノロジーの進化ならではの行為だと思う。

昔の映画・ドラマは、もはやファンタジーなのか。

昔と全く同じ『東京ラブストーリー』『愛していると言ってくれ』は作れないにしろ、『別れる決心』のような恋愛映画はたくさん作れるだろう。まぁ、私の胸に刺さる作品は稀な気がするけれど。

スマホ世代の若者や映画を早送りでみるような人たちへ言いたい。昔の映画・ドラマを「スマホがあればよくない?」で終わらせないでくれ。

映画『男と女』感想文

フリッパーズギターを〈ダバダの2人〉と呼ぶのなら『男と女』は〈ダバダの映画〉と呼びたい。

一度BSでみた時に、カーレースのシーンが長くて寝てしまった。あとベッドシーンが顔のドアップですごい撮り方するなぁといった印象だけが残っていた。

カーレースシーンの1回目はクリアできたが2回目のシーンではウトウトしてしまった。カーレースのシーン長くないですかね?

アヌーク・エーメ(アンヌ)はめちゃくちゃキレイ。人妻オーラがすごくて、さらに未亡人という箔がついて、向かうところ敵なしといった感じだ。余談だがアヌーク・エーメは『8 1/2』でグイドの奥さん役として出演している。あのメガネ美人がアヌーク・エーメだ。

アンヌとジャン・ルイ、それに2人それぞれの子どもと一緒にレストランで食事をするシーンで、ジャン・ルイがアンヌの背中に手を回すのだが、そっと触れるような描写が良かった。その後、船に乗るシーンでも指に触れそうで触れない描写がある。指の動き一つで心理描写を伝えるシーンなぞ使い古されているが、2人の心情の変化が伝わる好きなシーンだった。これぞ『男と女』。

私は子どもがいないから分からないけど、子どもがいる人は、映画の2人をみて嫌な気持ちになるのではないかと。子どもを放って2人だけの世界に入ってしまうシーンとか。でもさ『男と女』だからね。

アンヌが電報で「愛してる」と送ってしまうのに驚いたが(攻めてるな!)、その後すごい勢いでアンヌに会いに行くジャン・ルイが良かった。でも暗かったせいか寝た。だから運転中のジャン・ルイの心理が分からないままだ。再会して我が子よりも先にアンヌと抱き合うシーン良かったな!だって『男と女』だもん。

ベッドシーンの時に気づいたのだが、ジャン・ルイに抱かれている現在はセピアで、亡き夫を思い出すシーンではカラーに変わる。アンヌがいまだに亡き夫を愛しているという心情が伝わった。

ジャン・ルイの「愛してるって言ったのに、女心が分からない」とか亡き夫に対する嫉妬を吐くシーンには同情した。でもやっぱり迎えに行くのだね。それならば2人はゆっくり愛を育んでくれ。『男と女』なんだから。

亡き夫がサンバが好きで弾き語りをするシーンは最高。「サラヴァ」で幸宏さんを思い出した。

犬を散歩する老人が出てくるのだが「犬と歩幅が一緒」と会話するシーンも好き。ジャコメッティは火事になったら大切にしている絵画(レンブラント)よりも猫を連れ出すという話に繋がっていくのだが、2人の価値観が伝わる会話だった。この犬を散歩する老人と犬は何度か出てきた。

男「火事になったらレンブラントの絵よりも、猫を救う。そして、あとで放してやる。“芸術より人生を”だ」
女「感動的だわ」

アップと引きのカットのメリハリや音楽の使い方はすごく良い。映画なのだがMVぽさがあった。

『男と女』というタイトルが直球すぎて長らく距離を置いていたが、映画をみてこれ以外のタイトルは無いと思った。まんま男と女の話。それ以外何も無い。

【追記】
2019年に『男と女 人生最良の日々』という続編が公開されていた。全く知らなかったよ!しかもスタッフ、キャスト全て同じ!!ジャン・ルイ役のジャン=ルイ・トランティニャンは2022年に91歳で亡くなっているので、この作品が遺作となる。

続編って結構がっかりすることもあるので、みたいようなみたくないような…といった感じだ。だって『ビフォア・サンライズ』『ビフォア・サンセット』までは良かったけど『ビフォア・ミッドナイト』でガーンってなってしまったショックを思い出すからさ。

というわけで、今月の私の妄想映画館では『男と女』と『別れる決心』を上映したい。上記で述べたビフォアシリーズも捨て難いなぁ。ビフォアシリーズもスマホがあったら成立しないからね。そして上映後は「スマホがあればよくない?」について、あーだこーだ話し合おう!

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。