Column

雲散霧消の出会い人

佐藤一花

雲散霧消(うんさんむしょう):雲や霧が消えるときの様に、あとかたもなく消え去ること。

2022年11月、東京都竹橋にある国立近代美術館の『大竹伸朗展』へ出向いた。大竹伸朗について、改めて各々云々語るのは省く。行った人のみと感動を語り合うのが、最近の私の強烈な楽しみとなっているので。かと言って、どんなに並んでも美術館を鑑賞するのはチョッパヤ。プロローグとか経歴とかイヤホンなんて以ての外。かっ飛ばして、作品に向かう。何も感じない作品に対しては、じっくり見ず、頭の中に留まったモノを何処かに焼き付け、作品名なども覚えていない。でも、好きは強烈に焼きつくので16年前の大竹伸朗の展示も配置まで覚えている。

それなのに、私ったら浮足立って2時間も美術館にいたので、完全アッパー状態で所要を済ませ、一息つく頃に失くしモノに気づいた。モノや人に執着しすぎないと決めているものの、やはりショックと云う感情はある。冬期間の東京へ行く場合、手袋・ストール・携帯・リップなど小物が増える。コートのポケットに入れつつも、電車の乗り継ぎ等で失くしがちだ。全部紐を括りつけて、駄菓子屋の糸引き飴状態にしてやろうか!と思い、またレディなのに、ポケットにしこたまモノを入れ過ぎなのよ!と一瞬猛省する。基本的にアポーで奉納と云う名の基に、モノを失くす自分を呪っている。きっと美術館だろうか…と日々が過ぎていった。

再度、2023年1月に『大竹伸朗展』へおかわりしに訪れた。何となく落し物について、軽く聞いてみるかと云う気持ちで、インフォメーションレディへ。その方は、大変丁寧に調べて下さり。

レディ「確かに有りますよ!しかし、既に当館にはなく麹町署に遺失物として届出いたしました。お時間はありますか?」
「この後、よしもと観に行くので、行く時間がないです」
レディ「そうですか、遺失物は3カ月以後処分もあるそうなので、早めに連絡をお願いします」
「了解しました。調べて電話してみます。ありがとうございます!」

とインフォレディと歓喜して、立ち去った。本当良い人。

すっかり私は燃えていた。あの去年1番熱狂した出来事の、橋の下音楽祭で入手した切腹ピストルズの隊長が描いた<地獄極楽>手ぬぐいが、再度戻ってくる可能性があるのだから。

即効ググる。遺失物とは先ず落とした本人の届出が必要って訳ね(アポー放出)!よし!皇居周りに交番あったし、麹町まで行けぬので、聞いてみよう!と丸の内の某交番へ立ち寄った。交番は悪い事してないけど、ドキドキする。交番相談員メンが、これまた良い感じのファニーさで遺失物の書類説明と聞きとりをしてくれた。

相談員「あなた、群馬なの?落としてからこんな時間が経ってるけど、何故今届け出たの?時間は間に合う?私パソコン苦手だから少し待っててね!」などテンポが特に良い。素晴らしい。
「群馬なもんで、まさかあると思わず今になってしまい、極楽?地獄?って文字が入っている真っ黒の手ぬぐいで…美術館の方が届出したとの事で、時間大丈夫でーす!」
相談員「確認できる手ぬぐいあったよ、よかったね!内線繋がんないな…今は麹町署から飯田橋の警視庁遺失物センターってとこあるのだけど、そこに集約されているから行ける?ダメなら郵送もできるから。こちらへ電話して、番号も書いておくから」
「東京都の落し物が全部ここなのですね。明日直ぐに電話してみます!本当にありがとうございます」私は説明紙を持って交番を後に、信号待ちしているとメンが再度出てきて、「たぶんあの手ぬぐいで合っていると思ふけど、間違っていたらごめんね!」と笑顔でごめーんポーズした。

私は最後まで豪快めの優しさに驚き、「ありとうございました~」と思わず歩き出した。
「まだ赤信号だよ。気をつけて!ほら自分の責任で事故とかヤダから~はは~」と相談員は豪快に笑っていた。私はお恥ずかしと赤面し、でも良いおじに出会えたなと感謝して、ルンルンで帰郷した。その後、相談員とは?と調べたら、警察官OBからなる方々の様だった。パソコンできないとか可愛さしかない(※実際は使いこなしていました)。以前から繊細爺には嫌われ、豪快爺とのコミュはすーっと行くタイプの我。楽しい人だった。

さ、いざと警視庁遺失物センターへ電話。流石に混んでいるぞ、出た!各々云々で~番号は…と順調風だった。電話口のセンター員メンの後ろでは、物凄いザワザワしている。

「担当の佐藤と申します。同じ佐藤さんね!今回は郵送と云う事ですが、今手ぬぐいを持ってきますので少々お時間を…」兎に角佐藤さんもザワザワしている、1日に何件さばくのだろうと思ふ位、意気込みを感じるスピード感。私は、終始「ハイ」しか言えない。もう完全に彼の独壇場。気持ちが良いまでの疾走感。東京都を自分達が支えてる感すらあって、カッコいいの一言。
「ハイ、手ぬぐいの確認が取れましたので、明日書類を送ります。それを返送して下さい。そうしますと、ゆうパケット着払い300円でお送りします。書類の返送もありますので、お願いいたします」
「はい、ありがとうございました!」そう返すのが精いっぱい、兎に角急いでいる佐藤さんの会話は最小時間を攻めて来た。もう向こう側では、どうなってんだ?と気になって仕方なかった。

数日後書類をFAXし、呑気に働いていると電話が鳴った。
「あの~」
メン「遺失物センター佐藤です、書類が佐藤様足りませんので再度FAXください!」再FAXした後のリターン電の速さも尋常じゃない。
「書類が1枚しか入って無かったのですが…」
「大変失礼しました!では…」と一瞬振り出しに戻ったが、終始せっかちの私がアガる程のせっかち具合で佐藤さんは対応してくれ、東京都に在った私の手ぬぐいが、群馬県の自宅まで届いた。

このエンタメ感…まるで友近の西尾一男なのだ。「M寸ピザを段取りします~」のキャラが実在した。複数人の方に感謝しかないのと、ご迷惑もかけた事に違いないのだけど、何この良い人々。それを引き寄せる、この真っ黒の半部顔で半分髑髏の地獄極楽手ぬぐいは凄い。美術館~交番~遺失物センターまで、地獄極楽?!?!?!と全員に見つけやすいワードと図案でクスッとさせていたのも最高よ。警視庁データによれば、東京都で令和3年1日に8,273件の拾得物があり、本当にその中の1件になってしまったけど、とてもドラマチックな数週間となりました。

私は、すっかり警視庁遺失物センターで働きたくなり、ググってますが求人が見つかりません。反省と感謝、半々に空見上げて、雲にも霧にも消えない記憶が一つ。想いがあると、失くしモノも出てきますがな。

佐藤一花

Creator

佐藤一花

1979年群馬県生まれ。文化服装学院卒業後、アパレル生産管理、販売などを経て、現在のオフィスアートレディ活動に至る。イラスト・コラージュ・立体作品を制作。群馬、東京、埼玉など全国各処で展示を開催。