Column

なりきれなかった男

与良典悟

GO ON牧田編集長に「STUDIO VOICE」という雑誌を貰ってからその素晴らしい情報量に感服し、STUDIO VOICEを集めるのに最近はハマっている。といっても何年も前の雑誌なので古本屋を数軒回っただけではなかなか見つからない。その日は家から少し遠くのBOOK・OFFでSTUDIO VOICEを探すことにした。

いつものようにCDコーナーをくまなく見たのち、雑誌コーナーへ向かう。BOOK・OFFは予想外なところに良いモノが置いてある。言ってしまえばまだまだ適当なところがあるのだが、雑誌コーナーも例外ではない。男性ファッション誌のコーナーに始まりクッキング誌コーナーにアニメ誌コーナー、ミリタリー誌コーナーまで隅々見るが肝心のSTUDIO VOICEを見つけることはできなかった。今日もお目当ては見つからなかったと頭の中では藤岡弘、探検隊でおなじみの「ロッキー」のテーマが流れ始めるが、棚を再度見ると1冊の目を引く雑誌があるではないか。なんとなく中身をひらいてみた。

手に取ったのは近年に発売された「ポパイ」であった。本の特集らしい。著名人がそれぞれ好きな本を紹介しているようで、私はこういうリスト本が好きだったりする。音楽関係でいえば大好きなceroの人も本を紹介している~!と喜んで中身をパラパラめくったが、紹介者の中で最も目が留まったのは更に大好きな坂本慎太郎であった。映画監督のインタビュー本と日本の漫画を1冊ずつ、合わせて2冊挙げていた。STUDIO VOICEを探す、というその日の目的そっちのけで彼の紹介する本を読んでみたくなり、場所を変えてその2冊を探し始める。が、悲しいことにその2冊の本は置いていなかった。BOOK・OFFではたまに奇跡が起こる。奇跡が起こることもあるが、今日はその日ではなかったようだ。

ここで考え方を変えた。坂本慎太郎のおすすめする本を探すのではなく、私が坂本慎太郎になることにした。精神的に坂本慎太郎になりきって彼の欲しがる(であろう)本を買おうという作戦だ。

坂本慎太郎、ゆらゆら帝国のフロントマンを経て現在はソロで活動していることくらいは分かるが、彼に関するパーソナルな知識はほとんど持ち合わせていなかった。ゆらゆら帝国のメジャー1stアルバムをべた褒めしてくれたコーネリアスの小山田圭吾とは友達関係なんだよな、とかそのくらいだ。あと雨の日は髪がべたべたするから嫌いなのだろう。その程度の知識で彼になりきろうなど今思えば浅はかでしかない。坂本慎太郎は何をもって気に入った本を選ぶのだろうか。答えがあるなら聞いてみたい。

こうして本のコーナーで、答えのないまま体をゆらゆら揺らしながら本を探し始めるが、まさかというくらいにグッとくる本が無い。このBOOK・OFFにはそもそも何か月か前に来て(自分の)欲しい本を買ったばかりだ。掘りつくしたBOOK・OFFなどもはや焼け野原でしかない。

本のコーナーをいくつも横断していくがお目当ては何もないままで、まだ見ていないコーナーは少なくなるばかり。ここには坂本慎太郎の欲しがる本もないのかとがっかりしていたが、アート本コーナーでついに1冊の本を見つけた。

それは筋肉少女帯の大槻ケンヂが映画の紹介をする本だった。所謂B級映画が多い気もするが個性的なイラストとあわせて読むのがとても楽しい。そもそもオーケンのことは好きだ。既に彼の本が家にいくらかある。値段は1,000円程。悪くない。

じゃあこれを買って帰ろうかとレジに向かおうとしたとたんに、忘れていたことに気づく。坂本慎太郎は大槻ケンヂの本を買うのだろうか。あの坂本慎太郎だ。大槻ケンヂのB級映画本を読んでじゃあ僕もB級映画を観ようかな、という発想になるのだろうか。

いや、ならないだろう。無念にも大槻ケンヂの本はアートコーナーに戻されてしまった。

こうして知りもしない坂本慎太郎になりきって、大槻ケンヂの本を坂本慎太郎は買わないという謎の決め付けをしてその日の本探しは終わったのだった。最後に例のポパイだけでも買って帰ろうとしたが、レジには沢山のお客さんで行列が出来ていた。最前の客はよく分からないジャンプの漫画を大量にレジに置いていたが、もはやどうでもよかった。何もかも疲れ果てた私はポパイを元の棚に戻してBOOK・OFFを後にしたのだった。

今月の1枚 ゆらゆら帝国 「3×3×3」 

坂本慎太郎さんが出てくるコラムということで、今回はゆらゆら帝国の記念すべきメジャー1stアルバム「3×3×3」の紹介です。1998年の作品ですね。バンドの活動自体は80年代の終わりから始まっているようで、初期作品はあのZKレコード(!)からリリースされていたりと3×3×3のリリース時点でもそれなりのキャリアがあった模様。1996年発表の「アーユーラ?」辺りから割とポップに、というか段々聴きやすくなっていくのですが、そこら辺から国内サイケの重鎮、White Heavenの石原洋さんがプロデューサーとしてバンドに関わってゆきます。相性ばっちりのコンビ。満を持してのメジャーデビューだったわけです。

加工最小限の、シンプルに楽器の音で勝負するロックなこのバンドの音もカッコイイですが、私は特にこの作品の歌詞が好きです。水木しげるの世界観をそのままロックンロール・ワールドにお引越しさせたような、声に出して読みたいサイケデリックというべき歌詞につい入り込んでしまいます。例えば表題曲である「3×3×3」に出てくる、小さな子供を誘拐する悪魔をテーマにした歌詞。ちなみに悪魔はワンちゃんのふりをしています。何かやっていないと思い浮かばないような歌詞の表現力にはあこがれを抱きます。

あと本人がどういう気持ちで書いたのかは知りませんが、昆虫ロックの<ただそこにある物のように 生きたいんだ意味もなく>という一節には哲学めいたものを感じました。意味もなくそこにあるものにこそ意味がある。一種の東洋的思想かもしれません。彼がロックンロールを表現する上で何か壮大な考えがあるのだろうか、それとも直感でこの歌詞が浮かぶのか、気になってしまいます。1人のリスナーとしてそんなことを大真面目に考えるのもなかなか楽しいですね。

Creator

与良典悟

栃木県佐野市在住。知らない町の知らないレコード屋さんに行くのが好きです。