Column

Nothing Much Better To Do
「やるべきことは何もない」からこそ

HIROYUKI TAKADA

僕はいつだってそうだ。

サニーデイ・サービスのセカンドアルバム『東京』に収録された曲『いろんなことに夢中になったり飽きたり』を具現化したような性格。

ひとつのことに集中して、それをずっと追い求めるのは苦手。簡単に言えば飽きっぽい。そのくせすぐに何かに夢中になる。だから本を読むのも苦手。落ち着きがないって訳ではなく、いつもいろんなことに目移りしちゃうってこと。今では自分でもそういうものだと思ってるので、気にしないけど。周りにいる家族やらには迷惑かけてしまってるとは思うけど。

音楽を聴く、レコードを買う、カセットにも手を出す、は当たり前。こんなの趣味でも何でもない。生活そのもの、自分そのもの。呼吸するのと同じ。

とはいっても、今までの人生の中で大きな大きな波みたいなのが何度かあって、どっぷり浸るだけでなく、距離を置いたりした時期もあった。

インドア系の趣味はむしろこれくらいで、それ以外は割と普通。映画は劇場の心地良さに大抵負けて眠たくなるし、美術系には昔から距離があって、最近じゃ少しだけ緩和されたものの相変わらず根強い苦手意識がある。浅く広く、心狭く、深掘りも適度に。そんなこんなで50数年生きてきたって感じ。

僕はいつだってそうだ。
それでも、何らかのものを求めずにはいられない。

いつでも何かに夢中になる。

今はアウトドア系の遊びやら、それにまつわる諸々のこと。北関東に生まれ育って、海こそないものの山や川はあちこちにあって、そういった恵まれた自然環境の中に居ても、あまり魅力を感じなかったのが本音。

いや、むしろ、楽しみ方を理解できていなかったんじゃないかなって思う。外遊びとどう向き合うか。自分のやり方で、自分なりに。遊ぶことに理由なんてないんだけど、あえて意味を持たせていくとなんだか楽しくなってくる。

分かり合えやしないってことだけを分かり合おうって、思ってるから。そしたら山へ行ってみよう、見たことのない景色を見に行ってみよう。いずれ飽きてしまうかもしれないけど、今この時を楽しんでみよう。低山ハイクとはいえ、登山には違いないし。僕にとって海も山も未知なるフィールドだ。音楽を聴くとかってことより、ある意味純粋に楽しめること。そういうものを求めるのは実に爽快だ。

『Nothing Much Better To Do(藤原ヒロシ)』。

山とか森とかって考えると、まず最初に思い出すのはこのアルバム。森の中をポータブルプレイヤーを持って、ギター担いで歩く藤原ヒロシ。94年の名作。そうだ、じゃあ今度山に行く時にこれを聴きながら行ってみよう。どうせなら同じもの持って担いでってのが良いとは思うけど、現実的じゃないのでそちらはスルーでいいや。

木漏れ日の中、草木をかき分けながら進む、時折遠くで鳥の鳴き声や、野生動物の気配やらを感じたり。都会ではないところに身を置く心地良さ。息を切らしながら、山を登っていく。自分と向き合い、自問自答し、独りでいることで見えてくるものを感じてみる。

そして息をするように音楽を聴く。日常と非日常の狭間で、そしてどこでどう聴くかで、その価値が決まるのだ。『Nothing Much Better To Do』はジャケットと音、完璧なる相互作用がこのアルバムにはある。それを体感する喜び。

『やるべきことは何もない(Nothing Much Better To Do)からこそ』。

ひとりになれるところに身を置く。

そうして見えてくるもの、見えなくなるものがある。世界には雑音が多いから、心を無にすることって割と難しい。だったらそれができそうなところに自分を置いてみる。

何かひとつの事に集中して、雑念を払う。

僕は単純で、飽きっぽく、いろいろ長続きしない。だから、やるべきことは何もなく、ただひたすら草むらを掻き分け崖を登り、頂上を目指すってのもいいんじゃないかってね。そこに僕なりのサウンドトラックをあてはめてみる。

さあどうだろう。

風のざわめきと木漏れ日の瞬きが、リアルに身体に染み込んでくる感じがする。そういうのが割と楽しいって思えたのはちょっとした収穫。チョモランマでもなく富士山でもなく、近くの天狗山で充分だって思ったのは、まだまだやるべきことはあるんだってことなんだよ。

Creator

HIROYUKI TAKADA

群馬県太田市出身。90年代よりDJとそれに伴うイベント企画、ZINE発行等で活動。最新作は冊子『march to the beat of a different drum』を自身のレーベル『different drum records』より発行(2020年より)。コロナ禍以降の音楽と生活を繋ぐコミュニケーションのあり方を「手に取れる」紙媒体にて「無料配布」で行った。自らの活動と並行して、90年代より活動しているバンド『b-flower』の私設応援団『ムクドリの会』終身名誉会長でもある。