Column

勝手に妄想映画館 16

GO ON編集人

私はきっと、ピクニックへ行けないセーラ

20代の頃、映画好きの友人が教えてくれた『ピクニックatハンギング・ロック』。一度だけVHSでみたことがある。きっとソフィア・コッポラ監督作品『ヴァージン・スーサイズ』が好きな人なら、タイトルを見聞きしたことがあるだろう。いつか映画館でみたいと思っていたが、まさか(しかも4Kレストア版でっ!)鑑賞できるとは夢にも思っていなかった。

週末、足を運んだ場所はBunkamuraル・シネマ。もう今までの場所にはル・シネマは存在せず、渋谷駅すぐの宮益坂ビックカメラのビルに入っていて愕然とした。あの大人の社交場的な雰囲気漂うル・シネマがここなのかと。しかし、ル・シネマのフロアへ一歩足を踏み入れたらそこには完璧なル・シネマがあり、私はちょっとウルウルしてしまった。残してくれてありがとう。

さて、映画『ピクニック at ハンギング・ロック 4Kレストア版』の話だ。

なぜ、中年にもなって少女映画に魅了されるのか。先に述べた『ヴァージン〜』を再度みたいかと問われたら、さほどでもない。それ以外の少女映画にはほとんど惹かれず、パッと思いつくのは『ふしぎの国のアリス』ぐらいだ(ファションも似ているし)。だから『ピクニックat〜』を忘れることなく、定期的に画像や動画をディグっていたことが謎だった。作品の感想を読むたびに「耽美的な世界感」というワードを頻繁にみかけるが、私にはそのワードと映画は結びつかない。

寄宿舎の朝、美しいミランダが目覚めるシーンで映画は始まる。他の少女たちも顔を洗い身支度を始める。その間、手紙や詩の朗読をしている(愛についてとか語っていたような気がする。もう一度このシーンをみたい!)。コルセットの紐を3人ぐらいでお互いキュッとひっぱりながら並んでいるシーンが好きなのだが、映画が進むにつれてこのコルセットの呪いを知ることになる。

朝のシーンはまるで天国のようで、天使たちの目覚めとはこういうことなのか…と、うっとり。しかし、玉ねぎ頭の校長が出てきて現実に連れ戻される。ピクニックへ行く日、授業料を滞納しているセーラだけ寄宿舎に取り残される。一人教室で自習をさせられるが、校長に「詩の暗唱を」と問われても「いいえ」と反発し、自作の詩を朗読する。私はここで、ふわふわした天使ではないセーラに感情移入し、映画の中で最も自身と近い立場がセーラだと気づく。セーラはミランダに恋心のような憧れを抱いている。ミランダもその気持ちに気づいているのだが、髪をとかしながら鏡越しに「いつか私の家へいらっしゃいね。……私以外の人を愛さなければ。私はもうここに長くはいないわ」とセーラに告げる。その言葉は甘く残酷で、自身に言われているような錯覚を起こした。つまり映画をみている私はセーラで、同じ寄宿舎にいるけれどピクニックへは行けない。見つめることしかできない立ち位置であるからこそ、ピクニックへ行く少女たちに強い憧れと嫉妬を抱いてしまうのではないだろうか。

正午で止まる時計

ピクニック先で少女や教師たちが自由気ままに過ごすシーンも天国そのもの。白いレースのコットンワンピース、黒いソックス(ストッキング?)、黒いブーツ、カンカン帽、日傘、昼寝、読書、ルーペで植物を観察するミランダ、スコーンに齧るつくデブっちょメガネ、正午で止まる時計、岩山へ向かう少女たちをみつめる青年、ナイフでカットしたハート型のケーキに群がるアリ……。

ふと『ピクニックat〜』の正午で止まる時計は、岡崎京子の『東京ガールズブラボー』のあるシーンに繋がるのではないかと考える。

いつまでも こんな風でいたいな
いつまでも いつまでも こうしていたいな
このまま時間が 止まっちゃえば いいのに
このままで みんなといたい
大人なんか なりたくない
『東京ガールズブラボー』岡崎京子

ミュートビートのライブ帰りアスファルトに寝転んで呟く、なっちゃんの言葉だ。余談だがそのセリフの前ページも素晴らしいので紹介したい。

小玉さんのトランペットは
悪い血を流すための
ナイフのようだったよ

『ピクニックat〜』と『東京ガールズブラボー』を繋げるのは無理矢理過ぎるだろうか…。でも、きっとサカエちゃんたちも『ピクニックat〜』が好きだと思うから許してほしい。

映画の後半は天国から地獄へと進む。

コルセットを脱ぎ捨てた少女たちが向かう先とはどこなのか。私たちも、少女たちのようにコルセットを脱ぎ捨てて今に至るのか。記憶が遠すぎて思い出せないけれど、きっとそんなことがあったのかもしれない。

今月の妄想映画館は、映画の上映ではなく映画をみた人たちと『ピクニックatハンギング・ロック』ごっこをしたい。何役をやるか、白いレースのコットンワンピースを着てピクニックをしながら語りましょ。ピンクハウスへ行けば同じようなワンピが売ってそうなのだが、調べたら軽く4万超えなので断念した。仕方がないからGUかしまむらで探そうかな。ピクニックの場所はもちろん名草巨石群。『ピクニックat名草・ロック』。オーストラリアじゃないから苔むして滑りやすいけれど。よろしければ、ご一緒に。

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。