Column

2024年初日記

GO ON編集人

元旦

昼前に起きて餅を焼いて雑煮。かまぼこをツマミに日本酒(カップ酒)を飲む。年賀状が数枚届く。今年は年賀状を書かなかったので、寒中見舞いで返事をする。

BSで放送、黒澤明監督『用心棒』をBGMに『戒厳令下の新宿: 菊地成孔のコロナ日記 2020.6-2023.1』を読了。途中p355に黒澤明の話が少しあってニヤリ。p359「僕は川島雄三の生まれ変わりの1人である」でまたまたニヤリ。2023年に最も衝撃を受けた映画は川島雄三『しとやかな獣』だったので、なおさらである。大儀見さんとのやり取りも好きだし、p156「もっと負けて。すごくすごく素敵」なんて最高。しかしその後のコロナ日記を読むと、うっとりしている場合ではないのだが…。あとがきの「人を傷つけてはいけないなんて、誰が決めた?」の意味を考えながら本を閉じて初詣へ。

おみくじは中吉。とにかく健康であることを祈る。夫の実家へ向かう途中、夫のスマホから緊急地震速報(私はスマホを忘れた)。夫の実家のテレビからはアナウンサーが「逃げて!」と叫んでいた。

帰宅後、テレビをつけて状況を把握。2人でおせちをつまみながら「明日のニュースが怖いね」と話す。途中から録画した『探偵物語』に変えたが気が重い。

1月2日

正月恒例、高崎電気館へ『男はつらいよ』をみにいく。朝、ネットのニュースをみて暗い気持ちになる。私にできることなんて何ひとつないけれど、とりあえず自身が元気になって半径100mの人たちを笑わせることぐらいならできそうだ。よし、寅さんから元気をもらおうと考える。

映画館へ到着。待合所で円盤のレコブック『青春を売った男達』を読む。やっぱり田口さんの本は興味深くおもしろい。映画館から漏れてくる音声で、どのシーンが流れているかを想像してニヤリ。高崎電気館は待合所も最高である。

13時から『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』鑑賞。寅さんの友だち役の芦屋雁之助がいい味を出している。マザコンなところも良い。松坂慶子はすごく美しい。弟とのシーンは泣けたけれど、なんで男の部屋に泊まったりするのか。気のあるフリをして最低な女である。映画館では『男はつらいよ』のテーマ曲を無意識に口ずさんでしまうのだが、私以外にも鼻歌を歌っている人がいて、ちょっとうれしかった。

15時から『男はつらいよ 寅次郎かもめ歌』鑑賞。私的寅さんベスト3に入る作品。二代目おいちゃん松村達雄が定時制の教師役。国鉄職員のトイレ掃除の詩の朗読シーンが好きだし、寅さんとの掛け合いも素晴らしい。寅さんが願書を出していたくだりは、毎回ちょっと泣く。奥尻島のイカ工場で働いているあき竹城も見逃せない。ラスト「おらストリップやるだよ」で爆笑。今日はあき竹城に元気をもらった。松坂慶子よりランちゃんよりあき竹城を目指したい。

Twitter(旧X)で飛行機事故を知る。暗い気持ちになりそうなところを、あき竹城の笑顔を思い出してなんとか平常心を保つ。

1月3日

今日は特に予定が無いので録画した『秋刀魚の味』を鑑賞。『東京物語』の時も違和感を感じたのだが、笠智衆は理想の父親像のようにみえるけど、時代背景関係なしに最悪な父親だと思う。娘の結婚も自分の都合で進めているし、娘の気持ちなんて何ひとつ考えていない。考えているのは自分のことと世間体ではないか。それなのに最後は一般的な父親あるあるシーンで終わる。娘の恋愛を父親と兄が勝手に進めて失恋させるなんて最悪だ。その後はお見合いを押し付けてくるし。最終的に結婚するけれど、娘の意思ではない。

最も嫌悪感を感じたシーンが、中学時代の先生「ヒョータン」とその娘杉村春子の取り上げ方。立派になった生徒と落ちぶれた教師との対比はともかく、嫁に行けなかった杉村春子を自身の娘と対比させる見せ方はひどすぎる。酔い潰れたヒョータンを横目に涙する杉村春子。おい、お前らこの涙を見てみろ!と思った。

登場人物は皆現代的で裕福。理想的な家族映画ってことだろうか。「今は時代が違うからねぇ」では終わらないと思う。時代は関係ないし!

郵便受けをみたら立花文穂さんから年賀状が届いていた。それと忘れた頃にやってきた手紙も。これから読もうっと。

追記
菊地成孔のあとがき「人を傷つけてはいけないなんて、誰が決めた?」について。極端な考えだが、自身を犠牲にしてまで人を守る必要はない、ということだと解釈している(人を守る職業を除いて)。まずは、自身が元気でハッピーじゃないと何もできないし。菊地氏の言葉は極端だが、〈正しさ〉にがんじがらめになってしまった時に救われる言葉ではないだろうか。

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。