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幻の本屋、ボンジュール古本へようこそ

ボンジュール古本

毎号、ストイックにお笑いについてコラムを書き続けているボンジュール古本。たった一度だけ、オープンしたことがある古本屋だ。しかし一度きりなので幻となった。私はそこで沼田元氣が特集されている『ガロ』を200円で買い、現在も大切にしている。

今回はボンジュールさんから「図書館で借りてきた読んだことのない本を、タイトルや装丁の雰囲気をみて、どんな本なのか想像しながら話しませんか?」と誘われ、ゆるゆると対談のような雑談が始まった。

以下、対談した3冊の本だ。

○『「不思議の国のアリス」症候群』講談社
角田昭夫 (著)

○『世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え』河出書房新社
ジェンマ・エルウィン・ハリス (著)、西田美緒子 (翻訳)

○『最後に残るのは本』
工作舎(編)

アリスってどのシーンでも笑ってないような気がする
『「不思議の国のアリス」症候群』

『「不思議の国のアリス」症候群』講談社 角田昭夫 (著)

牧田「アリスについて深掘りする研究書なのか、物語なのか?分からないですね」

ボン「このような症候群について、はじめて知りました」

牧田「私、実は『不思議の国のアリス』が大好きなんですよ」

ボン「『不思議の国のアリス』って最後はティーパーティで終わりかな?」

牧田「多分、夢オチかもしれないです。私はすごくファンタジーだと思うので、病気と結びつきませんね」

ボン「どんな症状なのだろうか?アリスがおかしいのでは?」

牧田「うーん…それだとアリスをファンタジーと言った私が症候群の対象になってしまう」

ボン「それかー!症状のある方が目の前にいましたね」

牧田「ところでボンジュールさんは、アリスに対してどんなイメージがありますか?」

ボン「うさぎを追いかけるぐらいだから、好奇心旺盛な子。それと絵本をみていると、アリスってどのシーンでも笑ってないような気がします。ずっと真顔じゃないかな?彼女なりに楽しんでいるのだろうか?」

牧田「確かに好奇心旺盛ですね。アリスは自分を正当化するタイプの人だから、ウザイ子だなって思います」

ボン「では、本を開いてみましょうか」

牧田「(様々な症候群、精神的な病が記載されている内容をみて)想像以上にヘビーな感じですよ」

ボン「お、これは私の好みですね。全部重そうですが、読みたいです。なんか病名が昔っぽいなぁ。今なら助かりそうな病があるかもしれませんね」

【本の説明】
小児病などが重要な要素となっている小説、文学を紹介し診断する読書ガイドのような本。

【ボンジュール古本の感想】
この病の症状としては「偏頭痛特有のはっきりした幻覚」らしく、言い得て妙と腑に落ちた。著者のあとがきによると、小児には様々な病があることを知って欲しいとのことだった。タイトルに惹かれ手に取った本だが、全く予想しなかった内容であり、こういうことが起こるから、私たちは本を選び、読む事をやめられない…と実感した1冊となった。

実物を手に取り、パラパラと本をめくれる自由。少なくとも自分たちが生きてるうちは書店や図書館は存在していて欲しいし、この自由を享受したい。

美しい答えだね!
『世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え』

『世界一素朴な質問、宇宙一美しい答え』河出書房新社
ジェンマ・エルウィン・ハリス (著)、西田美緒子 (翻訳)

牧田「まず、我々でやってみましょう」

ボン「では、素朴な質問をしますね」

牧田「はい、美しく答えますね」

ボン「なんで空気は透明なの?」

牧田「空気に色がついていると、全部同じ色になってしまうから。例えば空気が赤だったら視界が全部赤になってしまう。この世の中には色がたくさんあることをみせるために、空気は透明なのではないでしょうか」

ボン「美しい答えだね!」

牧田「では逆でやってみましょう」

牧田「どうして同じ生き物なのに、犬は4本足で人間は2本足なの?」

ボン「うーん(沈黙が続く)」

牧田「…難しいですね。では、本を開いてみましょうか。パラパラみて、特に気になる箇所をピックアップしましょう」

牧田「あ、音楽はどうして存在するのか?っていう質問と答えがおもしろいですよ」

ボン「答えている人、ジャーヴィス・コッカーだ!パルプ(バンド)の人ですね。ただ答えるのではなく、素敵に答えるというのが良いです」

牧田「そういえば、こども電話相談室も言葉が美しいです。難しい言葉を使わずに分かりやすく答えることは大変だと思う」

【本の説明】
子どもたちが投げかけた身近な疑問に、世界的な著名人たちが答える本。

【ボンジュール古本の感想】
「真実や美を探求することは、われわれが一生涯子どもで有り続けることを許されている活動領域である」−アルベルト・アインシュタイン

目次に並んだ質問をみているだけで、いつのまにか何でも知ったような大人のふりをし、とりまく環境に疑問を抱かなくなり、このような質問について考えたこともなかった己に、絶望することになる。

「なぜ夜になると眠るの?」「どうしてお金があるの?」「水にさわると、どうしてぬれている感じがするの?」…

事実や現象をそのまま説明しているものもあれば、哲学的な答えもあった。1冊を読み終える頃には、その分野の専門家でなくとも「自分ならこう答える」というアンサーを持ち合わせておくことが重要なのだと感じた。

個人的にグッときたのは、「どうしていつも大人の言うことをきかなくちゃいけないの?」に対するコメディアンからの答えだった。もしも小学生くらいの子どもにたずねられることがあったら、こんな風に答えて差し上げたいと思うような返答だった。

きっと誰が読んでも、グッとくる質問と答えがあるのではないかと思う。唯一の正解を示そうとするものではないから、答えは無限なのだ。

この本だけに言える事ではなく、万物全てにおいて。

同じ本を繰り返して読まないですね。まぁ忘れていくんだけども
『最後に残るのは本』

『最後に残るのは本』 工作舎(編)

牧田「この本みたことありますね。最近の本かな?」

ボン「新刊コーナーにありましたよ」

牧田「タイトルがすごく良いです」

ボン「ちょっと説明が足りないですよね。このタイトルには深い意味がありそうな気がします」

牧田「なんか、現在のネット社会への反発を感じますね。紙はいらないって言う人に対しての反発というか。最後という言葉は、情報が上書きされていくなか、本だけは物として残るってことでしょうか?」

ボン「引っ越しの準備中、後回しにして最後まで残ってしまったのが本。そういった時の整理や選別の作業のことでは?本を大事にしすぎているようにも感じ取れます」

牧田「無人島に持っていく本、という意味もありそうですね。ボンジュールさんは無人島へ持っていく本はありますか?」

ボン「うーん…、私そういうのないんですよ。同じ本を繰り返して読まないですね。まぁ忘れていくんだけども。大切に読んでいる本もないですね」

ボン「そういうのがあると、カッコ良いけど」

牧田「読書はボンジュールさんにとってインプットになりますか?」

ボン「そうですね。1番割きたい時間が読書ですね」

牧田「最近読んでいる本はありますか?」

ボン「上野千鶴子先生と鈴木涼美さんの『往復書簡 限界から始まる(幻冬社)』です。『小説幻冬』で連載していて、おもしろかったので買いました」

牧田「往復書簡って良いですよね。クウネルで江國香織が妹とやっていたのがおもしろかったですよ」

ボン「そういえば、江國香織の絵本の翻訳はすごく良いのでおすすめです」

牧田「では、本を開いてみましょう」

ボン「うーん『私的な本について私が知っている二、三の事柄』みたいな、ちょっとカッコつけている感じがするね(笑)」

【本の説明】
1986から2000年にかけて、工作舎の新刊案内『土星記』に連載された67人の書物随想集(工作舎の本に挟み込んだ新刊案内『土星記』に連載した)。

【牧田の感想】
特に興味深く笑いながら読んだ、松山巌『本の利用法』と三宅理一『恐怖の光景』。両者とも、本を「大切なもの」ではなく「生活の道具」として扱っていることに共感でき、クスクスと笑いが溢れた。そして積読派の私にとって、とても気持ちが軽くなる内容だった。

また、あとがきにある『祖父江真×米澤敬「土星」の歩き方』も必読。素晴らしいデザインの装丁が並んでおり、手に入るのであればコレクションしたいぐらい。

最後に、ボンジュールさんが「撮れ高が足らなかった場合」と言って持参した私物の本を紹介しよう。

左:『告白』講談社 町田康(著)

左から2番目:『服は何故音楽を必要とするのか?「ウォーキング・ミュージック」という存在しないジャンルに召還された音楽たちについての考察』河出文庫 菊地成孔(著)

ボン「菊地氏の本の中で1番人気がないので持ってきました。『スペインの宇宙食』や『東京大学のアルバート・アイラー』は話題になるけど、これは全く話題にならない」

左から3番目:『音楽遍歴』日経プレミアシリーズ 小泉純一郎(著)

牧田「なんで小泉純一郎の本なんて持ってるんですか(笑)」

ボン「あなたが誕生日にプレゼントしてくれた本だよ…」

牧田「…覚えてないですね。この本の中で1番気になったので、また買ってプレゼントしちゃうかも」

ボン「この本をきっかけにクラシックをきくようになりました」

右:『Phaidon Press Limited annunciation』

ボン「受胎告知が大好きです」

奥:『早稲田文学増刊号「笑い」はどこから来るのか?』早稲田文学会

ボンジュールさんとお菓子を食べながら、ゆるゆると雑談は続く。そして気がつくと日が暮れて、まちなかなのにカエルの声がうるさく鳴り響いていた。

ボンジュール古本さんは、英国式アロマトリートメントをはじめたそう。もちろん屋号はbonjour aroma(ボンジュールアロマ)。お笑い、読書、受胎告知、アロマトリートメント…。それらに接点はあるのだろうか。気になる方は、ぜひbonjour aroma(ボンジュールアロマ)へお問い合わせください。

取材協力:mon temps

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