Column

コロラドの椎茸

ボンジュール古本

前口上
勤務中、昼食はMacBookが置いてある自分のデスク上で食べる事が多くて、なかなかお行儀が良くないことは承知なのだがすぐの作業も対応できるし、食べながら動画を見られるし便利なのでよくやる。その際見る動画は『きのう何食べた?』『孤独のグルメ』『ソロ活女子のススメ』等の食べ物系の番組がほとんどだ。一緒に食べている気分になりたくて……などという理由では勿論なく、人が食べている様子をただ見ていると自分もそれが食べたくなってしまい、そのことで頭がいっぱいになるのを防ぐためである。自分も食べながら見ていると、気がまぎれる。

人と一緒の食事は勿論、1人でする食事もまた楽しめる方だと思う。今はそれも時代の変化や感染症の流行を経てからは普通で自然な行動だし〈ぼっち飯〉と自虐風に言って笑われることもなければ、1人飲みなんてむしろ、実はみんなそうしたかった、みたいなことになっている。小西康陽さんも菊地成孔さんも、1人の食事はむしろ大好きと言っていた。その気持ちはわかる気がする。

なか卯を食べる回とかもあります

今日は芸人のYouTubeチャンネル『金属バット無問題』の「喫煙可能カフェで爆食い」を見ていた。このチャンネルは芸人の金属バット友保、小林の2人が大阪の街をぷらついて煙草を吸ったり、東京の喫煙所案内をしていたり、煙草の銘柄について話していたりと、いつも煙草を吸いたがっている2人の自然な姿を撮っている動画だ。煙草吸う以外の回もちゃんとあるし、画面上から受動喫煙する心配もないので安心して視聴して欲しい。この回は英國屋というカフェで爆食いをして煙草を吸うだけの内容だったが、いつもより情報量が多かった。

(元)鳥溶岩の前田さん、現る

京橋の英國屋、と言われてすぐに大阪とは気付かず、銀座の近辺にあんな派手な喫茶店どこにあるんだろう、漢字の表記がかっこいいななどと考えながら見ていた。これは英國屋からのオファーだったそうで、喫煙と飲食をぜひ当店でと呼ばれるようになったのだから、煙草もずっと吸い続けてみるもんだなと思った。カメラを回し始めてすぐに、(元)鳥溶岩の前田さんが偶然目の前を通った。友保がインタビューなどでよく名前を出している人物で〈日本で一番おもしろかったおっさん〉と呼ばれている。おもしろかった、と過去形になっているので、今はそうでないのかも知れない。友保は、よく京橋にいるけどほんとにおったな、うれしいうれしいと何度も言い、今度ライブ出て下さいよと言ったら渋がられ、飲みに行きましょうと言うと、先輩の前田さんは「おごりならええよ」と即答していた。

芸人界隈で名前だけ聞いたことがあるが実体は知らない、ということはとても多い。よく芸人が「あの人は誰よりも一番おもしろい」とか「あの人よりおもしろい人を見たことない」とかの話しをするのだが、そう言われる人に限って、今はもう芸人をやっていない場合が多い。理由として聞く一部に、家族の介護のため養成所を辞めてしまった、やむを得ず家業を継ぐことになった、気付くと消息不明だった等……各々諸事情がある。そして芸人稼業などしていなくとも、おもしろい人は山ほどいる。今回は、その中のひとりでもある前田さんの存在は確認できたから良かった。

……良かったってなにが?

メニューは、金属バットと撮影スタッフでシェアして食べることになり、真剣に相談していた。英國屋は「輩が来ない」らしく、たまに来た機会なので「カレーは外せない」とか「ポテトサラダの様子を確認しておかないと再度来るはめになる」など、このチャンスを最大限活かそうというオファーを頂いた気概という名の食い意地が見えた。

・アイスオンワッフル、メープルシロップソース
・ベーコンエッグサンド
・カレー
(全てドリンク付きのセット)

上記を食べ終えた後の追加注文
・シーフードドリア
・ポテトサラダサンド

コロラドの椎茸

注文を伝え、食事を待つ2人は話し始めた。時間をつぶすためにわざわざ喫茶店に入ったりしないとか、鳥溶岩さんはミスドにいるとか、ちぇく田さんがよくベローチェでネタを書いているとか、そういった雑談だ。

金属バットは、腰まで伸ばしたロングヘアに柄シャツを着ていることが多い友保と、坊主頭で長身の小林のコンビで成り立つ。なかなかダークなチンピラの様な風貌なのだが、いつも仲よさそうに会話をしていて違和感がなく、カメラが回っていない場でも特に態度が変わらないように見える。

まじめな質問にも必ずボケて、東京には住みたくないと言い続け、周りの芸人が言うには、浮いた話が全く出てこない(小林は既婚)し、2人が漫才のネタ合わせしている姿を見たことがないそうだ。笑い以外のトークの場では、週5は休みたいとか、友保は猫を飼っているとか、沼津の劇場のケータリングは最高とか、いつもほんわかトークを繰り広げている。

過激なのはネタだけだ。気持ちが良いほど振り切っていて、歪みのようなものを全肯定し、価値観を破壊しては再構築する。金属バットだけができる漫才が確実にあって、作家の町田康や女優の黒木華も、彼らの大ファンだと公言している。

雑談中、最近はコロラドの椎茸がめっちゃうまい、と言い出した。京都は祇園花月劇場付近にある、コロラドという喫茶店のメニューにある、椎茸がうまいということだった。赤ちゃんの顔くらいの大きさの椎茸を焼いたものがメニューにあるそうで、店主が原木から作っているそうだ。万病に効くなどと言っていたが本当だったらすごい。そしてそんなわけない。

2人とも、メニューが届く度にありがとうございますとお礼を言い、紙製でないストローに喜び、毎朝このサンドを食べたいと絶賛し、ワッフルにアイスをたっぷりのせてほおばる。友保はまだ全然いける、と追加注文をしていたが、小林はひとくちずつ食べて早々にごちそうさまと言い、すかさず「赤飯でも食っとけハゲ!」とつっこまれていた。

英國屋での収録前、同チャンネル『商店街さんぽ&食べ歩き【空堀商店街】』の回を撮影していたようで、小林はエナジードリンクを飲みながら和菓子屋で購入した赤飯を3パック食べていたためだ。友保もこの時、みたらし団子と羊羹をもりもり食べていた。しかもこの前日も、叙々苑のお弁当と崎陽軒のお弁当を食べて、夜はさらに、持ち帰った崎陽軒のお弁当を食べたそうだ。

芸人は売れるとだんだん太っていく人が多い。飲みの席が増えるからかなと勝手に推測しているが、金属バットはもう立派な売れっ子だけど、彼らは全く太っていないように見える。

追加注文をする際、シーフードドリアとカフェ飯、どちらにするかを迷っていた。偏見と言われようとかまわないが、どう考えても金属バットはカフェ飯にいかないだろ。

大阪で食べたいもの

英國屋は大阪を中心に店舗展開をしているようで、都内には大丸東京と新宿西口の2店舗があるようだった。重厚な外観にレースのカーテン、ミントンのコーヒーカップ……。確かに輩は近づかなそうな喫茶店だが、機会があれば行ってみたい。

夏に大阪へ行きたいと思っていたがもう真夏。今年行けるかあやうくなってきたが、もし行ったら食べたいものがまた増えた。十八番のたこ焼きに、千とせの肉吸い、そしてコロラドの椎茸だ。そして2人の食べる姿につられて、動画を見ながら私もコーヒーを飲み、スイカを食べ、おみやげに頂いた横浜のお菓子ハーバーを食べたのだった。

と、これを書いている本日8月11日は友保のお誕生日、そして突然の結婚発表があった!!彼女いたんだね!ってそりゃいるよね!友保さんおめでとうございます!

大変うれしい!のと同じくらいのさみしさも感じていますが、これは一体なんなのだろうか?そして、こういったさみしさが達観に変わる日は来るのだろうか。来ないかもしれないその時をじっくり待ちたいと思います。