まるでそぐわないと思って食べていたもの。
幼い頃、食にうるさかった父が時折作ってくれた煮込み料理。
チキンとオレンジの煮込み。
偏見かもしれないが男の人って、飽きるまで同じ料理を繰り返し作りがちだと思う。
父もやはり例に漏れずそうだった。
うっすらとした記憶の中に浮かぶ、チキンとオレンジの煮込み。
クローブの香りがアクセントなんだと父は言っていた。
思い返すと一度たりとも、美味しいと思って食べていたことは無いし、
またかー。と言い放ったこともあったはずだ。
味付けはいつもボヤッとしてたし、バランスも作る度に違ったように思うし、
鶏肉のブニョっとした食感が気持ち悪いと思っていたこともあった。
だけど、断片的に蘇るクローブの香りの記憶の中に、得意げに煮込みを振舞う父の表情と、
立ち昇る温かい湯気が見える。
美味しくても、イマイチでも、それは郷愁の味の一つ。
そのチキンとオレンジの煮込みは今、姿を変えて
TSURUMAUカレーのメニューの一種類として加えられている。
味はボヤッとしてないし、バランスも良いと思って作っている。