前回に続いて、御茶ノ水〜神保町界隈の話なのだが「地図のような文章」を書く前に、この界隈についての全体的な想い出を一度書いておいたほうがよい気がしたので、今回はちょっとそういうお話を。
子どもの時から本というものが好きで(おそらく親の影響が大きいのだと思うが)、本屋に行くのがとても好きだった。えびす講(桐生市の秋の一大イベントである)に行った際には、本町通りにある古本屋に寄るのが、うちの家族の定番だった。主にはマンガ本を全巻セットで安く買ったりした(『機動警察パトレイバー』だったり、ビリヤードマンガの名作『ブレイクショット』だったり)。
そういうわけで古本屋という場所にも魅力を感じるようになった。高校の時に、古本好きの一風変わった古典のM先生(クリスチャンで古本好きな上にドリフトの愛好家であった)に、神保町の古書店街の話を聞いた(案内してくれるっていう話も出たのだが、結局立ち消えになってしまった)。神保町の古書店街は、日の光を浴びて本が痛まないように、基本的には北向きにお店が並んでいることなど。そういったことで僕の中で神保町は、あこがれの街となった。
実際に神保町へ行くようになってまず驚いたのは、古書店街ではなく三省堂書店の本店だった。三省堂という名前は辞書の会社ということで知っていたが、その三省堂の本屋があり、それがとても巨大なことに驚いた(大きなビル1つが本屋なんて信じられなかった)。
前橋市の煥乎堂(かんこどう)にはじめて行った時にも本の量に驚いたが、三省堂書店の巨大さにはちょっとしたショックを受けたくらいだ。高校3年の夏に行った時には、入口付近で村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』がタワーのように積まれていた(それが村上春樹さんという作家との最初の出会いだった)。三省堂書店はしばらくの間、僕の中で1番の本屋となった。作家のサイン会にも行った(村上龍、北村薫など)。
大学に入学し東京で暮らすようになって、休みの日に遊びに行く街は御茶ノ水・神保町が多かったと思う。本屋だけではなく昔ながらの喫茶店もあり、兄とあこがれの喫茶モーニング(珈琲とトーストとゆで卵)というのを体験したのも、神保町の喫茶店だった(たぶん喫茶エリカだったかと思う。今はもうないようだ)。
そんなこんなで、大学1年の夏の終わりからアルバイトを始めようと思って、バイト先として選んだのは神保町の喫茶店だった。書泉グランデの裏の喫茶リオという名の喫茶店でバイトを募集しているのを見つけ、初めて書いた履歴書を携え緊張しながらお店に入った。とてもやさしく面接をしていただいたのだが、働ける時間が合わずに残念ながら断られてしまった。
帰り際にマスターが「他の喫茶店でも募集していると思うから行ってみな」と言ってくれた。その言葉に勇気づけられ、さっそく同じ履歴書をそのまま持って、斜向かいくらいの小宮山書店の地下にある神田伯剌西爾(ぶらじる)の階段を下りていった。店長のTさんと話も合い、神田伯剌西爾(ぶらじる)でバイトをすることになった。神田伯剌西爾(ぶらじる)でのバイトは、本当に素敵な時間だった。珈琲の淹れ方を教わったり、ゆかいな先輩たちと音楽の話や色々なくだらない話をした。
神保町には三省堂や書泉、東京堂書店などの新刊書店に加えたくさんの古書店(主に小宮山書店と小宮山書店の隣の田村書店に通った)、そしてディスクユニオンがあったので、神保町で稼いだお金の大半は、神保町で本や古本や中古CDに還元されていった。大学の授業を終えて、神保町にバイトに行く日々が2〜3年は続いたと思う。
神田伯剌西爾(ぶらじる)でのバイトを辞めてからは少し足が遠ざかってしまったが、大学卒業後も2つ目の職場が本郷だったので、再び御茶ノ水・神保町界隈を訪れることは増えた。その後東京を離れてしまいなかなか行く機会も減ったが、今でも大好きな街のひとつである。コロナが落ち着いたら、またゆっくりと訪れたい。
(おまけ)
インターネットで古本を簡単に探せるようになってしまったが、古本というのは探すのが楽しいので、やっぱり古本屋や古本市に出かけていって、山のようにある本を片っ端から見ていくのが楽しいと思う。