2024年1月20日に岡山市民会館で開催された、迫力のライブも人気の屋台もアートもなんでもござれ! のお祭りイベント『あなごFES』。
前編では、岡山のアンダーグラウンドシーンやストリートカルチャーがテーマの“がやがや街ステージ” エリアの様子をレポートしたが、後編では多種多様なジャンルのバンドやミュージシャンがラインナップされた、“どやどや祭ステージ” エリアの模様をお伝えする。なお、当日は2エリアのパフォーマンスの時間が重ならないように、交互にライブやDJが行われるよう配慮されたタイムテーブルになっていた。
“どやどや祭ステージ”のオープニングアクトは、ザ・ブルーハーツのカバー・コピーを中心に活動するロックバンド、ザ・グリーンハーツ。岡山の表町商店街にある「株式会社ありがとうファーム」で働く、障がいを持ったメンバーを中心に構成されており、「TRAIN-TRAIN」など、時代を超えて愛されるザ・ブルーハーツの名曲の数々を熱く歌い、演奏した。
次に全日本ダンスコンクール全国大会に出場する小学生のみで結成されたチームなどダンスチーム数組が登場し、クオリティの高いダンスパフォーマンスを披露。会場を盛り上げた。
“どやどや祭ステージ”の美術監督・演出はデコレーションアーティストのはおにろさん。花などの装飾は能勢聖紅さんが担当し、お二人は舞台で演奏するミュージシャンのイメージに合わせて舞台セットを制作したとのこと。ステージの幕間に舞台セットも毎転換するというから、期待が膨らむ。
岡山県出身のシンガーソングライター、さとうもかさんのライブでは、黄色や赤、ピンクなどのカラフルな布と花や植物を合わせた舞台セットが出現。彼女のライブを観るのは数年ぶりだが、特徴的な歌声と“新世代のユーミン”と称される、シティポップ的なメロディーは健在だった。
荒谷翔太さんは、福岡出身の新世代ネオソウルバンド・yonawoのボーカルとして多方面で活躍し、2024年から本格的にソロ活動を開始したシンガーソングライター。オーディエンスは、その優しく艶のある歌声にじっと耳を傾けていていた。
倉敷でデザートタイム・クラシキを営む、龍くんのA Tribe Called NoiZとVJや光を担当するUOU KzOのコラボユニット・A tribe Called NoiZx UOU KzOは“どやどや祭ステージ”の幕間にパフォーマンスを披露。サンプリング・コラージュを駆使した音楽はノイズの一言では括れない、アンビエント的な浮遊感を感じた。
『あなごFES』で個人的に観たいと思っていたアーティストのひとつが、柳家睦とラットボーンズだった。種々雑多なメンバーのルックスと、場末の飲み屋街のような舞台セットとがベストマッチした昭和感満載のライブに観客は大盛り上がり。小林旭の「熱き心に」カバーあり、歌謡スカな曲あり、卓越したスキルで演奏を繰り広げるバンドの音は聴きやすくノリやすく、睦氏の唄はあらゆる者に対して優しい。エンディングでアコースティックギターのイケポン氏が歌う、中島らものカバー「いいんだぜ」も沁みた。
次に“どやどや祭ステージ”に登場した、Theタイマンチーズもワタクシがライブを観たかったアーティスト。レゲエDEE-JAY・J-REXXXとラッパーの紅桜の岡山県津山市出身のマブダチコンビがこの日は『あなごFES』にちなんで、ライブ直前に仕込んだという板前スタイルで登場。息の合った流石のコンビネーションで、アルバム「少年」収録曲を中心に渾身のステージを見せてくれた。個人的には、レゲエの名曲であるジョン・ホルトの「Police In Helicopter」のフレーズが入る、「Ganjah Ganjah」を岡山市民会館で聴けたのが嬉しかった。
1993年に結成され、岡山を拠点に全国で活動しているファスト/ハードコアバンド・IdolPunchのライブを観るのは、2007年6月24日に渋谷 O-WESTで開催された『HARD CORE CONFIDENTIAL Vol.1』以来なので、実に17年ぶり。激速ながらもキャッチーさも感じさせるハードコアパンク、といったバンドの印象や、ブリーフ一枚で演奏するメンバーの容姿も当時とさほど変わっていなかったが、年輪を重ねた大人のユーモアや落ち着きも垣間見えた。ヴォーカルのRacco氏が行なっている、能登半島の被災地への炊き出しなどの支援活動を「自分がやりたいからやってる」とさらっと語っていたのには素直に「スゴイ人だな」と思わされた。
そして、『あなごFES』のヘッドライナーであるTURTLE ISLANDが、“どやどや祭ステージ”に登場すると、観客のボルテージも最高潮に。ワタクシはTURTLE ISLANDのアコースティックユニット・ALKDOとは2回ほどイベントでご一緒しているのだが、TURTLE ISLANDのライブを生で観るのは今回が初だった。これまでYOUTUBEでライブ動画は観ていたのだが、生のライブの迫力は圧倒的。太鼓から叩き出される力強いリズムと巧みな演奏に乗って歌われる、エネルギーの塊のような愛樹氏としなやかさと力強さを合わせ持つ竹舞さんの唄がストレートに心に響いてきた。
愛樹氏がMCで「俺が橋の下世界音楽祭で『これは俺たちの祭りなんだから。こんな楽しいこと、自分のとこでやれよ』と言ったのを真に受けて、翌年から本当に来なくなったんだよね」と、主催者の砂子さんが『あなごFES』開催に至った経緯を語り、「みんな一人一人が祭りをデザインしていいんだよ。世の中を祭りで埋め尽くそう」という言葉に勇気を貰った人も多かったのではないだろうか。
“がやがや街ステージ”では、岡山の音楽シーンの幅広さと豊かさを再確認し、“どやどや祭ステージ”では、国内外で多くの聴衆の支持を受けているバンドやミュージシャンの音楽的クオリティの高さを感じることが出来た。どちらのエリアのデコレーションや舞台セットも素晴らしく、飲食などの出店ブースも充実していたので、参加した人の多くは満足感を感じながら帰路についたのではなかろうか。
このコラムの前編の冒頭で、″岡山県には長い歴史を持つ奇祭や変わったお祭りが数多くある″と書いた。今回『あなごFES』に参加してみて、岡山の県民性は総じて温和で控えめだが、お祭りとなるとアドレナリン大放出で盛り上がりまくる人が多く、新しいモノや変わったコトも許容する文化的下地があるから奇祭や変わったお祭りが綿々と続き、音楽を中心に楽しむ新しい祭りやネットワークが生まれているのではないか、と考えるに至った。
今後『あなごFES』が開催されるのか、今の時点では全くわからない。しかし、1回きりで終わってしまうのはもったいないし、砂子さんには周囲の人を巻き込んで大きな祭りを作り上げる力が備わっていると思うので、開催直後から既に大奇祭と呼ばれている『あなごFES』が次回開催されるときには、ワタクシも何らかの形で携わりたいと思っている。