今回の煩悩は、6つの根本煩悩である貪(とん)の中の卓悔(たくかい)。
貪は、好きなものに対する激しい要求。
卓悔は、落ち着かない様子。
昨年末、栃木県足利市在住の方と話す機会が多かった。ずっと住んでいる方、途中からの方、昔を知る方。自分で足利を回想して話せば話す程、どうしても毎度同じ部分で落ち着かなくなってしまうのだった。
ファッションにルールはありません。
ファッションは感性であり知識は関係ありません。
ファッションは個人のものです。
ファッションはみんなと同じではなくみんなと違うものです。
ファッションは第三者が介入するものではありません。
ファッションは着せ替え人形ではありません。
ファッションは自分で選ぶものです。
ファッションの本質と軽薄な商業主義は永遠に交わりません。
ファッションは人間性や品性に立却したものです。
ファッションは複雑で難解なものではありません。
ファッションは好きなものを好きなように着ればよいだけのものです。
ファッションは新しいものです。
ファッションは変わっているものです。
ファッションは元気を与えてくれるものです。
ファッションは自由ですばらしいものです。
これは、ファッションライターが書いた記事でも無く、川久保玲の言葉でもなく、栃木県足利市通5丁目3195にあった『夢想』と云う服屋のDMに書かれていた文章である。横長のはがきにビッシリと文字が並んでいる。ただそれだけ。取り扱いは、コム デ ギャルソン、トリコ コム デ ギャルソン、Y’sなどだったと思ふ。
ひとり暮らしの時から、ずっとこのDMを額装して持っていた。久しぶりに額装をひっぺがして、裏を見たら2005年のモノだった。結構大人になってからのもの。
人生の最底辺だったあの時だから、刺さったのか、いやそうではない。
服飾学生の頃から、そう思っていた部分がずれることなく表現された核になる言葉だと思ふ。
このDMに書かれた言葉が、私は今も大好きだ。今回この言葉だけで終えても良い位だけど、少々思い出す店の話をしたい。
高校の時は、古着アメカジブーム、ギャル女子高生ブームの到来。DCの終わりかけ、モードファッションがまだ残っていた。
DCブランドとは、イッセイ ミヤケ、コム デ ギャルソン、ヨウジヤマモトの御三家。ハイファッション系の残りが元気だった。群馬県高崎市や地元にもコム デ ギャルソンを取り扱うお店は在ったけど、1番好きで怖くて色んなことを思い出す店が『夢想』。
外観は、大きい窓ガラスにマネキンが数体。海外に在りそうな、洒落た無骨系倉庫。ワンフロアに太い錆びた鉄骨の柱、天井は布が貼られていて、店主が内装を仲間たちとつくったと聞いた。中央とカウンターに大きいテーブルが配置され、来店すると店主は出前のそばを食べていることもあった。シンとしていたが、きっと何か音楽かラジオは、かかっていたのだろうと思ふ。
店主は至ってシンプル。クルーネックニットに白T、少しべたっとしたグレーヘアにメガネの40~50代の男性。
やばファッションを扱っているとは思えぬ、普通の風貌。
明らかに普通なのであるが、高校生の自分にはどうにも話しかけづらい雰囲気だ。なぜなら、服屋によくある「何合わせたら良いんですかね?」って聞こうものなら、「そんなナンセンスな質問すな」と言わんばかりに答えて貰えない。
靴の履き方には厳しくて、踵が靴の命だから、靴ベラを使って履くこと。つま先トントンなんてして履かないことなどを教えてくれた。完全に、怒られながら食べに行く蕎麦屋スタイルである。服屋だけど。
しかしその店は、全国で1点しかないコム デ ギャルソンの服も置いてあると専ら噂の名店として知られていた。なので、コレクションで尖り過ぎて売れないだろう服達も結構置いてあった様に思ふ。
私が上京し、いつの間にか閉店した後、家具屋になっていたことまでは追っていたが、今は建物も壊され、恐らくローソンの広い駐車場になっていると思ふ。
そう云った高校時代の足利想い出話を知り合い何人かに話しても、誰も知らない。他の服屋は皆覚えていても、『夢想』だけは誰も存在を知らない。
いやはや、私の青春だったあの服屋は、長年熟成を重ねバクった脳みそがつくりだした私の妄想幻想だったと思えてきて、大変落ち着かない心になった。
『夢想』はセール時期になると、女性がいつも手伝いをしていた。その店主の名前も手伝いの女性の方も思い出せぬまま、この轟音にて誰か人伝に分からないものかと思っている。
ググって検索したら画像も出てこず、ミクシィが出てきたので初めて登録してみたら、適当な世間話しか繰り広げておらず、実態をつかめる様な情報は無かった。
そして、大概の事はググれば出てくるかと高を括っていた私が居た。
『夢想』が私の全て妄想幻想だったら、入院したいと思います。知っている足利の方いらっしゃったら、こちらへご連絡くださいませ。
あのやばくて最高なお店の話をお聞かせください。
佐藤一花