Column

勝手に妄想映画館 11

GO ON編集人

勝手な思い込みだが、岩波ホールで上映する映画は文芸的で社会性が強く、予習しないと分からない映画。つまり絶対に寝る映画だと思い、長らく近づくことはなかった。

しかし3/25〜31に開催された高崎映画祭にて、岩波ホールで上映された『ジョージア映画祭2022』の作品がいくつかラインナップされていると知り、40歳過ぎてはじめて岩波ホールで上映する映画の世界へ足を踏み入れた。

毎年、高崎映画祭は気になる作品があれば足を運んでいる。今年は、配信などされないだろうジョージア映画に即決めた。つまり高崎映画祭の受賞作品をひとつもみないという選択だ。話題の『偶然と想像』(監督・脚本:濱口竜介)もスルーした。

3/26しか行ける日がなかったので、解説を何度も読み以下の作品に決めた。『ピロスマニのアラベスク』『ピロスマニ・ドキュメンタリー』『ピロスマニ』『マグダナのロバ』。大きく分けるとピロスマニという画家についての映画と、1956年カンヌ国際映画祭短編グランプリを獲得した受賞作品をみることにした。

事前にプログラムを買って、軽くジョージアという国の位置とピロスマニが画家であることを予習して、あとは映画に身を任せることにした。

ジョージアという国について、簡単に説明しよう。以下ジョージア映画祭2022Webサイトから一部抜粋。

― ジョージアはコーカサス山脈の南に位置し、ロシア、アゼルバイジャン、アルメニア、トルコと国境を接している。―
― 3000年の歴史があるといわれ、東西交易の要所であるために周辺の国々から度重なる侵略を受けてきたが、今日まで独自の言語、文化を守り通してきた。―

どんな国なのか、なんとなくイメージできただろうか。ワインの産地でもあるので『ピロスマニ』では、ちょいちょいワインを飲むシーンが出てきた。

映画をみる前は「東欧独特のどんよりとした暗さ、重さ、歴史などを感じて鑑賞後はぐったりしそう。多分寝る」などと思ったが、そんなことはなく(少し寝たけども)芸術作品として存分に堪能できた。

もちろん社会的な背景も描かれているが、重苦しいというより「これが現実である」と受け止めることができた。それは現在のウクライナ情勢にも繋がるから、より一層そう思ったのかもしれない。

私は歴史や政治、地理などに詳しくないので、音楽や衣装からその国の立ち位置を想像する。ジョージア映画で流れる音楽は中東の雰囲気がある。衣装も同様だ。地理がよく分からないから音楽の雰囲気で想像し「トルコと近いからそんな感じかも」となんとなく理解する。毎回こんな調子で映画に興味を持ってから、歴史などを掘り下げて勉強している。

移民という言葉に興味を持ったのも映画がきっかけだ。トニー・ガトリフ監督の『愛より強い旅』をみた時、ロマン・デュリスが最高にカッコ良いのはさておき、「自分のルーツを辿るってどういうことなのか?」と理解できなかったので、アルジェリアという国のことやルーツという言葉について調べたりした。余談だが、この『愛より強い旅』のサントラは傑作で、宗教音楽でトランスすることを学んだ。映画はそういった学ぶことのきっかけをくれるから、素晴らしい文化だと思う。

さて、映画の感想を述べていこう。

『ピロスマニのアラベスク』『ピロスマニ・ドキュメンタリー』。ピロスマニがどんな人物で、作品を描いていたのかがよくわかる。この2本は同時上映だ。これらをみてから『ピロスマニ』をみたのだが、すでにピロスマニに歩み寄っている状態なので、難なく鑑賞できた。事前に読んだプログラムによると「撮影は、被写体の影を嫌い―」と記載されていた。興味深かったので、そこに注視してみることにした。

ピロスマニの絵は、奥行きを感じない平面的な絵である。「撮影は、被写体の影を嫌い―」というのは、ピロスマニの絵と合わせるためなのかもしれない。そうそう、影の話とはズレるが、なんとなく植田正治の写真を彷彿とさせるシーンがいくつかあった。人物の配置なのか、色のコントラストなのかはっきり言えないけど。「あぁ美しいなぁ」と思うシーンに出会うたび「植田調?」ってなったのだ。

続いて『マグダナのロバ』。71分の短編だが、儚くも力強い作品だ。ちょいちょい歌うシーンがあるので「ミュージカルなのかしら」と思ったけど、後半になるとミュージカル要素はほとんどなかった。この映画に出てくる村人は皆貧しい。靴もなく裸足なのだ。父親のいない家族。母親はヨーグルトを作り、それを担いで徒歩で(裸足)街まで売りに行く。その家族にロバがやってくるわけだが、ハッピーエンドにはならない(興味深いことに、原作はハッピーエンド)。因みにロバの名前はルルジャ。声に出して言いたいかわいい名前だ。

貧富の差、権力による理不尽な横行。現代も変わらないなって思うけど、この時代(物語は1895年が舞台)はもっと悲惨だろう。最後の「世界は広いから」といったセリフが、ひどく胸に刺さった。ハッピーエンドじゃないからこそ滲み出る怒りや悲しみが、映画を通して社会に訴えかけているように感じた。

1日で3本みても疲労感ゼロ。満足感のみのジョージア映画だった。時間があれば、もっとみたかったな。岩波ホールで上映する映画をじっくり堪能することができるなんて、大人になったものだ。

最後に残念なお知らせだが、岩波ホールは2022年7月29日で営業を終了するとのこと。今さらだが、これを機に行ってみようか。

というわけで、今月の私の妄想映画館では岩波ホールで上映しそうな作品を流しましょう。寝ても良いでしょう。きっと1つぐらい、心に刺さって掘り下げたくなる作品と出会うから。そして、映画を通して世界のことを学びましょうよ。そんな勉強法も良いのでは。

Creator

GO ON編集人 牧田幸恵

栃木県足利市在住。グラフィックデザイナー、タウン情報誌等の編集長を経て2020年12月にGO ONを立ち上げた。