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カレーは偉大なるコミュニケーション的食べ物

TSURUMAU

nachiさんとは以前勤めていた会社で出会った。
社内でスパイスカレーを振る舞ってくださり、私はもちろん大盛りにし「なぜ、皆は普通盛りもしくは小盛りなのか?」などと考えながら食べたことがTSURUMAUスパイスカレーとの出会いである。スパイスカレーとゲストハウスをやっていると聞き、なんとなく懐の深い「姉さん」みたいな雰囲気で「おかわりください」と言っても「たんとお食べ」と笑顔で返してくれるような、やさしさと力強さを持ち合わせた女性という印象があった。

本当に旅人だったTSURUMAU

失礼を承知の上で申し上げるが「旅する〜」って言葉を良く目にする。皆、安易に「旅をする」ことができないので「旅する〜」というワードが付属していると、グッと魅力的に感じてしまうのではないだろうか。
それはさておき、nachiさんの「旅する〜」について話を伺った。
昔から一人旅が好きで、色々な土地を周っていたそう。それと同時にスパイスカレーの魅力に取り憑かれ、自身でもつくっていたという。
「旅」と「スパイスカレー」。ある日将来を決定づけるできごとが、旅先の佐渡島で起こった。シェアキッチンで2日間カレー屋を開いたところ、評判が良く2日間で50名程のお客様がいらっしゃったという。佐渡島である。きっとご年配の方が多いであろう。しかしスパイスカレーは「目新しい食べ物」として島民の胃袋を掴んだ。

その後紆余曲折を経て「事業を起こそう」と地元群馬県桐生市へUターン。
「これだ!」と感銘を受けた古民家に出会い、一人旅の時によく泊まっていたゲストハウスとスパイスカレー屋をやりたいと考え「TSURUMAU」が動き出す。
ここまでのエピソードを聞くと「事業を計画したのは2、3年前の話ですかね」と思うかもしれないが、nachiさんは2019年にUターンをしてきた。つい最近の話だ。ずーっと桐生市に住んでいるようなイメージがあるnachiさんだが、まだ2年も経たず。それだけ短期間で一気に動いたのだと思うと、そのパワーと行動力に頭が下がる思いだ。

実は桐生市へUターンしてきたばかり

entoオープン

2020年11月、JR桐生駅北口にentoをオープン。
ここはNORRY’S COFFEEのオーナーである小林さん、太田市のグラフィックデザイナー清水さん(ento内で雑貨店「suns」を運営)とTSURUMAU のnachiさんの3名で立ち上げた複合ショップだ。
ゲストハウスTSURUMAUでは、条例によりスパイスカレー屋を併設することができず、間借りやイベント出店などで活動をしていた。ある日NORRY’S COFFEEのオーナーである小林さんから「店舗をやらないか」と声をかけられた。nachiさんは、西日暮里駅前にある「西日暮里スクランブル」という建物をリノベーションした複合施設の在り方(本屋、飲食店などオーナーが異なる6店舗が入る商業施設)を参考にし、この施設のようにそれぞれが独立した店を入れようと考えた。
各々が協働で運営をしていくことができるため、店舗を立ち上げることと継続していくことのハードルが少し下がるような仕組みだと思う。今後店舗を構えたい方には参考になる事業例ではないだろうか。また来店するお客様が1店舗だけをみて終わりではなく、その場所を回ってくれるため、買い物をする動線の確保もしやすい。
ぜひentoへ足を運び、それらを体験してほしい。

JR桐生駅北口にあるento。各店舗のオープン日はInstagramをご確認ください
https://www.instagram.com/ento_2020/

TSURUMAUスパイスカレーの秘密

私は辛い食べ物は好きだけど、汗を大量にかくので「食べ疲れ」を起こす。「スパイスカレー」と聞くと「辛さ」を連想するが、TSURUMAUスパイスカレーは「やさしさ」でできている。とは言え「甘い」わけではない。なんというか、とにかく食べてほしい。
それともうひとつ、副菜(付け合わせ)がとってもおいしい!単品で食べても混ぜてもおいしく食べられる。さらに彩りも美しい。なんというか、とにかく食べてほしい。

スパイスカレーをつくる時は、インドっぽい音楽をききながら料理をしているのだろうかと思い、料理中のBGMについて質問をすると「キッチンにまつわる曲をきくことが多い」とのこと。Nabowa feat. ACO「キッチンへようこそ」、EGO-WRAPPIN’「クイックマダム」など。
「本場の味を提供したいというのではなく、おいしいものをつくっている、という思いで料理をしている。本場の味ではなく自己流、つくっている人のテイストが出ている食べ物が好き」とnachiさんは話す。

続いて「スパイスカレーを映画に例えると何か?」と質問を投げてみた。すると、ビリヤニのおもしろい話を聞かせてくれた。ビリヤニに魅了される人は、こだわりの強い男性が多いらしく料理にハマると「俺のビリヤニ」といった感じでつくるそう。
そんなイメージから「ビリヤニを映画で例えたら『キル・ビル』。強いイメージがある(笑)」とnachiさん。
取材後、私はそれについて考えていたがひとつ思い出したことがある。TSURUMAUでビリヤニの大盛りを頼んだ時、スパイスカレーとは違い咀嚼が必要なので思いのほか、ヘビーだった。なるほど、、、ある意味『キル・ビル』というイメージに合点がいった。

ピンク色の副菜はビーツと豆をまぜたもの。味だけでなく、見た目もかわいい
nachiさんこだわりのプレート。この向きが正しいとのこと

これからのTSURUMAU

2021年、TSURUMAUのやりたいことは何かと尋ねると、またもやnachiさんらしいアイデアが降りてきた。
「音楽が好きなので、店と音楽を結び付けたい」。
1月17日entoで行う朝市では、うどんとアンビエントギターのユニット「ウドンビエント(清水屋うどんの清水さんと音楽家の富沢仲さん)」のライブを開催予定だ。カレーといえば、、、といった「いかにもカレーっぽいミュージシャン」を持ってこないところがnachiさんだ。

ところで店舗を構えたTSURUMAUの旅は終わったのか?

「いずれ、今まで旅に出た中で一番好きな佐渡島と瀬戸内海が美しい高松へ行き、その土地の食材を使ってスパイスカレーを振る舞いたい」と話す。さらに、留学していたドイツへも目を向ける。「ドイツにはインド料理店が少なかったように思う。TSURUMAUスパイスカレーを提供して反応をみてみたい」。

食事は人と人の繋がりを濃くしていくもの。その中でもカレーは、誰でも食べることができる大衆的な食べ物。カレーは偉大なるコミュニケーション的食べ物ではないだろうか。

私はこれからもTSURUMAUスパイスカレーを「大盛り」でオーダーして行こうと決心をした。しかしビリヤニの大盛りには要注意。だって『キル・ビル』だから。

この手でTSURUMAUスパイスカレーがつくられているのだ

■TSURUMAU今月のカレーポエムはこちら
https://goon-type.net/tsurumau/2021/01/i-am-queen/

Creator

TSURUMAU nachi

群馬県桐生市出身。15年の東京暮らしを脱して地元桐生市へ2019年にUターン。TSURUMAUの屋号でゲストハウスとスパイスカレー店を運営している。趣味は映画、音楽鑑賞。好きな映画はジム・ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」、ヴィム・ヴェンダースの「ベルリン・天使の詩」。ヴィム・ヴェンダースとは誕生日が同じ。