Column

『everything, everything, everything』

HIROYUKI TAKADA

1995年。僕は初めて自分のパソコン(Macintosh Performa)を購入した。イベントのフライヤーデザインをしたり、冊子を作ったりしたかったからだ。今から思えば、文字入力程度しかやらない、実にシンプルに使う程度だったけれど。Adobe関連のソフト(当時はパッケージ版のみ)も世に出回っていたが、僕のPerformaでは到底追いつけない代物であった。やりたいことがある程度はっきりしていたので、すぐにネット環境を整えることはなかった。興味はあったけれど、僕には必要ないと思ったからだ。結局、僕のPerformaは壊れるまでネット接続はしなかった(ていうかあの機種はネットに繋ぐことが出来たのだろうか?)。

少し時は流れて、次に購入したのが1999年頃、iMac G3 snow。従来のパソコンの持つ硬いイメージを一瞬にして打ち破った革新的なフォルム。もはや伝説とも言えるキャッチコピー『Think different』、テレビCMで使われていたローリング・ストーンズの『She’s a Rainbow』、これはもう完全に撃ち抜かれた。これしかないって思った。当時の僕は、冊子を作るとかイベントのフライヤーを作成するとか、一段落していた時期だったので、新しいパソコンを買ったらやはりネットに繋ぐってことになる。ダイヤルアップ接続方式。今みたいに何事も無かったかのように繋がる時代じゃない。繋がっていく過程が音でわかる。なんかもう、世界と繋がるって事だけでワクワクした。

インターネットは君に
愛を伝えるために生まれた
誰もいないディストピアの
どこかで呼んでいる
<ミッドナイトタイムライン>作詞・作曲:浅見北斗(Have a Nice Day!)

壊れかけのテープレコーダーズ、Have a Nice Day!の遊佐春菜6年ぶりのソロアルバム『Another Story Of Dystopia Romance』は、自身がサポートメンバーとしても活動しているHave a Nice Day!のカバーアルバム。遊佐さんと言えば2020年、b-flower22年ぶりのフルアルバム『何もかもが駄目になってしまうまで』に収録された『僕は僕の子供達を戦争へは行かせない』でゲストボーカルとして歌っていたのがいまだに鮮烈に残っている。そして今年、数々のバンドへの参加、サポート等を経て発表されたソロアルバムは、実に現代にリンクした、タイムリーで味わい深いものに仕上がっている。

僕が初めてネットを使うようになった頃のことを思い出した。極初期段階は某有名オークションサイトでの販売が中心。初めて携帯電話を持ったのもこの頃だったけれど、友達がたくさんいる方ではない(今でもそうだけど)ので、メールのやりとりは少なかった。ネットでレコードが買えるようになってから、実店舗へ行くことが少なくなった。レコードは「足で買う」ものだと豪語していた頃から思えば、随分変わったなと思う。今もそういう(足で買う)気持ちは変わらずに持っているけれど、欲も次第に薄らいでいく感じは否めない。便利になることで忘れていくこともある。それ自体は、産業や経済、僕らの生活水準等、向上していく過程の事なので、否定するつもりは微塵もない。

僕はインターネット 世界と繋がってる
だけどひとりぼっちさ 誰も僕に追いつけない
僕が眠る時は この世界が終わる時さ
その時はどうか僕を 強く抱きしめておくれよ
<everything, everything, everything>作詞・作曲:浅見北斗(Have a Nice Day!)

2009年。世はブログブーム。インターネットの可能性は、ここぞとばかり開花していた。有名芸能人も、一般市民も、会社も個人も、大人も子どもも、みんなブログ三昧。勿論そうなれば乗らない理由がない。ネットで「ブログ」を検索して一番上にあったSNSサイトに早速登録。そこから始まる物語は、今の今まで続くことになる。ずっと悶々とした日々を送っていた僕に、ようやく光が射してきた気がした。北関東でネオアコやっても、理解者なんて全然いなかったからね。広がりを感じることが出来たのはすべてはネットのおかげ。今こうして原稿を書いてるのもすべてネットのおかげ。嗚呼、素晴らしきインターネット。

僕があと20年生きたら、今の時代をどう思うだろうか。

<21世紀インターネット全盛時代。勿論、全てが良かったわけではない。匿名故の誹謗中傷や、それにまつわる様々な災難。炎上なんて昔じゃ考えられなかった。世界が身近になったことで、むしろ肩身が狭くなるようなことも起こりうるという現状。責任あるべき言葉が無責任な解釈に繋がる。表裏一体。すべてこの言葉に集約される。生きにくさと息苦しさ。21世紀初頭、時代の縮図とも言うべきネット主流の社会は、可能性だとか未来へ繋げる為の何かだとか、そういうものを置き去りにして、個人的で閉鎖的なディストピアシティの、由々しき産物となりつつあった。勿論すべてがそうではなかったと思うけれど、世の中が便利になればなるほど、古きものが廃れていくのは常である。けれど、そうして文明は進化してきたということは、否定すべきではないのだ。僕もその波に乗って生きてきた、小舟に乗った一人の船頭。新しい波に古びた小舟で出ていくほど愚かではない。でも、失くしたものの大きさは、後で分かるものではあるけれど>

いずれにせよ、僕らの世界は止まることがない。
本当に進化すべきなのは、僕らなのだ。

Creator

HIROYUKI TAKADA

群馬県太田市出身。90年代よりDJとそれに伴うイベント企画、ZINE発行等で活動。最新作は冊子『march to the beat of a different drum』を自身のレーベル『different drum records』より発行(2020年より)。コロナ禍以降の音楽と生活を繋ぐコミュニケーションのあり方を「手に取れる」紙媒体にて「無料配布」で行った。自らの活動と並行して、90年代より活動しているバンド『b-flower』の私設応援団『ムクドリの会』終身名誉会長でもある。