気になることを見つけたら掘って掘って近づこうとするのだが、萩田さんのことは掘れば掘るほど、わからない。いや、手が届きそうなところまで掘ってもまた石にぶつかるような、そんな感覚だ。時折「一体何を読まされているのだろうか」と手が止まることもある。しかし、それでも近づきたいと思う。私にとって萩田さんはそんな人物だ。
私は、萩田さんのInstagramの中で最も謎である「水石(すいせき)」について教えてもらいたく取材を申し込んだ。水石とは【室内で石を鑑賞する日本の文化、趣味である。自然石を台座、または水盤に砂をしいて配置して鑑賞する(Wikipedia)】とある。「石が落ちていないようなところで探したほうが楽しいですよ」というアドバイスに沿って、私たちは群馬県太田市の南一番街で石を探すことにした。
桜満開の4月。太田駅で萩田さんと待ち合わせ、南一番街を歩きながら水石について話を聞いた。
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<ストーン返事>田舎は都会より饒舌である
「新宿でツチノコを探していたら、こんな都会なのに石が落ちていることに気づいたんです。僕は路上で見つけた石を<ストーン返事>と呼んでます。つまり街からの返事。田舎は都会と違ってたくさん返事をくれるんです。田舎は饒舌ですよね」。
萩田さんが現在所有している水石は約20個。新宿、銀座、表参道、竹下通りなど石が落ちていないような都会のど真ん中が採石地。手のひらに収まる小さな石は、自作の台座にのせてコレクションしている。
「散歩が好きなんです。そういったおもしろいことを見つけながら歩くのが楽しい」。
会話をしながら、昼間の南一番街を歩く私たち。
下を向いて石を探したり、上を向いて看板のデザインに歓喜したり、下を向いて落ちているゴミに興奮したり、上を向いて建物のデザインに感心したり、下を向いて石を拾ったり、恐る恐る人気のない裏通りに足を踏み込んだりした。そしてスマホでいちいち写真を撮った。
あの日、あの街、あの石
それでは拾った石を台座にのせて水石を完成させよう。
【用意するもの】
・好きな場所で拾った好きな石・台座として使う端材・台座を掘る彫刻刀(無くても可)・台座に色を塗るためのポスカや蛍光カッティングシートなど。
近くの公園へ移動して、私たちは石の選別と台座づくりを開始した。
【1】台座に石をのせて、石と台座を選ぶ。(台座にのせると石がグッとオシャレになる!置き方もポイント)
【2】セレクトした石を水で洗う。
【3】台座の色塗り。ポスカや蛍光カッティングシートを使って、好みの色に仕上げる。
【4】石をのせやすいように台座を彫刻刀などで掘ってもよい。置くだけではなく、もたれる感じに置いても様になる。
「あの日、あの街、あの石、といった記録をしましょう。どこで拾ったが重要ですよ」と萩田さんがアドバイスをくれた。
書く側ではなく、読む側として作品をつくる
萩田さんの作品は読むだけでは完成しない。マルセル・デュシャンのテクストの写経、オリジナルギターのデザインなど、何かしら読む側が手を加えないと完成しないのだ。
「書く側からの一方通行にならないように、読む側が作品を完成するようにしていますね」。
ところで、萩田さんの肩書きは何になるのか?
「僕は、作家やライターには遠く及ばないし、違いますね。ただ、文だけでなくデザインを含めた文集づくりをしていきたいですね」。
私はこれからも、萩田さんを掘っては石にぶつかってその石を拾ってコレクションして、作品を読みながら「一体何を…」というサイクルを永遠に繰り返していくのだろう。
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