「AND NYCはチルアウトに最高なカフェですよ!」とBEDROOM RECORDSに紹介してもらった栃木県足利市名草にあるカフェAND NYC。名草の里山に囲まれたロケーションは、それだけで心が落ち着く。オーナーの中山研司さんは、祖父母が暮らしていた家を改築してカフェにした。温もりのある空間と中山さんのゆるいけど奥深い話に、ついつい長居してしまうことも。今月は中山さんトークのロングバージョンを、みなさんへお届けしよう。
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生き物が心地良い場所
「新しいメニューにキーマカレーがあるんだけど、畑でとれたお野菜を使ってるんですよ」。中山さんは亡くなった祖父母から引き継いだ畑で、無農薬野菜の栽培をしている。畑仕事をしていると、ふと気づくことがあるという。
「畑を始めた頃『自分がつくっている』という気持ちが強かったんだけど、太陽や水や空気この環境は全て自然に与えられたものだと気づいた。だから僕は自然の一部でしかないと思ってます」。
「『スコップひとつでできる事』という誰でも簡単にできるやり方が好きで、水と空気の交流点となる点穴を掘って、水と空気の流れをつくり健康な大地を再生させたいな」と中山さんは話す。
私のように畑仕事に馴染みのない人でも、スコップひとつで農業に関われる仕組みは興味深い。さらに話は続く。
「お店の裏に『シードバンク』をつくる計画も進めている。固定種や在来種をみんなで育て分け合う。『シードバンク』から種を持っていったら、自分のところで作物を育て種を採取して、またこちらに返す仕組み。これは昔からやりたかったこと。頭で考えることよりも、自然に寄り添った空間をつくることをすすめています」。
里山の再生やオーガニックに意識がある人同志のコミュニケーションの場になるし、またそういったことを知らない人には学びの場所にもなりそうだ。中山さんは畑仕事を通して気づいたことを、どんどんアウトプットしている。
僕みたいなポップな生き方の人がいてもいい
自然に恵まれた場所で農業をやりながらカフェをやる、という理想的な暮らし。みんなの憧れの暮らし方だが、なかなか真似をすることは難しい。中山さんの考える「生き方」とは何か? そこに少しでも真似をするヒントがありそうだ。
「若い頃に自分の常識を覆すような出来事やプライドが折れて深く傷ついた時、それを素直に受け止めて消化すると優しくなると気づいて。僕は優しく生きていきたいから、人の常識に沿うのではなく、自然に沿って生きる」。
「それに僕はお酒が飲めないから、おいしいコーヒーが飲みたいと思って、コーヒーを始めたんです。素敵に生きている人たちがいないと、若者に夢がないと思って」。
「『自分にとって素直な生き方とは何か?』ということに重きを置くことが大切じゃないかな。ポップな生き方の奴がいた方が世界が素敵になる」。
「生き方」について笑いながらも深い話をする中山さん。では、みんなに1番伝えたいことは何か?
「僕は伝えたいことがあると、すぐラップしたくなるんだけど、言葉では伝わらないと思う。感じること、気づくことが大切だから。このお店もそう。自分の美意識を押し付けるのではなく、僕が感じている『自然の心地良さ』が出ていれば、理由なんて説明しなくても伝わるんじゃないかな」。
川で洗濯する姿が自然になれば
ここ足利市名草は前述したように、自然に恵まれた土地だ。しかし、最近変化があるという。
「里山に大きな太陽光パネルができると悲しいですね。僕はそういったことと戦おうとは思わないけど、ただ自分自身ができることをこの場所でやろうと決めている。ここには、僕たちが自然のためにやれることがいっぱい残っているから」
そう話す中山さんには、将来の自分像がある。
「近くの川で洗濯をしていても不自然じゃない人間になりたいですね。今、僕がそれをやるとおかしなオヤジに見えちゃうけど、自然なリズム感で生きていればそういった姿が不自然ではなくなると思ってる。この話、今年の夏にたくさん話していたから、2〜3回聞いてるお客さんがいるかもしれないけど」。
自然に囲まれた場所で暮らしているからこそ、思いつくことなのだろう。いつか川で洗濯している中山さんに出会いたい。きっと自然と同化していて、気づかないかもしれないが。
シンプルなのに力強い言葉
前述したような生き方・考え方を持つきっかけ、または影響を受けた人物はいるのだろうか?
「写真家の星野道夫さんのことがすごく好き。星野さんのストレートに核心を突く文章を読んで、伝える言葉はシンプルでいいんだって思いました」
「特に影響を受けたエピソードが、エスキモーの村シシュマレフの村長へ、村へ行きたいと短い手紙を書いたら村長さんから『いつでも来なさい』って短い返事が届いたという話があります。それを読んでから逢いたい人には逢いに行こう、行きたい場所へは行こうっていう気持ちになった」。
現在はコロナの影響で現実的に難しいが、行ってみたい場所はあるのか?
「北インドのレー、イタリア、クロアチア。自然と調和して生活しているコミュニティーのある場所は肌で感じてみたい。お店もあるので買い付けもできるし、この場所に良い影響を与えられるかな」。
AND NYCに来る客としては、お店のブラッシュアップはとても楽しみだ。
カルチャーの原点はバンド
中山さんとの会話の楽しみに、音楽や映画の話題がある。特に音楽に関してはジャンルの幅が広く、DJなどをやっていたのかと思いきや、意外にも中学生から25歳までバンドをやっていたと話す。担当はベース。学生時代、周りには音楽好きの人たちが多かったので色々な音楽を聴き漁ったという。高校卒業後、バンドの活動がきっかけで東京へ。生活の中心は音楽だった。
きっかけは何でもよくて、その先が大切なのではないだろうか。そうそう、お店のBGMも外の環境音と相まって心地良いので、耳を澄ませて聴いて欲しい。
ここで好きな映画の話題も。
「映画のベスト1を挙げるとしたら『ビッグ・リボウスキ』(コーエン兄弟製作)。僕が『映画!』と思う要素が全部詰まっている作品。最近はグザヴィエ・ドラン監督の作品に痺れています」。
生きることの話から身近なカルチャーの話まで、奥深く楽しめる場所AND NYC。自分の気の向くまま、心地良さに身を委ねて過ごしてほしい。