Column

もうええんやったら、もうええわ
(コウテイ)

ボンジュール古本

前口上
ピスタチオ、はなしょー、ボーイフレンド、Groovy Rubbish、うしろシティ、ハッピーエンド、マカロン、オジン・オズボーン、笑撃戦隊、井下好井、コウテイ、オドるキネマ…

上に挙げたのは、2022年から2023年にかけて解散したコンビ達だ。彼らはごく一部であり、他にも解散した芸人はもっとたくさんいる。私はその情報を知るたび、知らない芸人であっても、とても悲しくなる。なぜなのか、自分でもよくわからない。

前回のコラムではウエストランド井口さんによる、私にとっては完璧な<コンビの関係性について>のことを聞くことができたと思っていた。が今回、その関係性の解消について書くことになるとは思わなかった。これに触れずにはいられない程、昨年から今年にかけての解散がバタバタと増えた。芸歴がとても長いコンビ、根強いファンがたくさんいるコンビも多くいた。

余談だが…井口さんは後のラジオ番組で「あのスピーチを放送するなんて、俺は聞いてないんだよ!あんなの新婦の家族が聞いてるから良く言ってるだけに決まってるだろ!」とキレていた。アナザーストーリーの制作側も、良いことを言ってもらおうと必死なのだ。

解散の理由

主に考えられる理由を、私の拙い想像力と芸人によくある状況、今までの情報から推測し、いくつかを挙げてみる。

●方向性の違い
双方のやりたい事や目的、指標となるものが明らかに違う。例えばテレビに出てスターになりたい、もう一方は劇場に立ち続けてネタをやり続けたい等。

●2人が不仲
特に仲良しである必要もないが、仲が悪いとネタ作りや稽古に支障が出る。テンポ、間、息がかみ合わなくなってきて、お互いの嫌な部分がもの凄く気になってしまうそうだ。

●相方へのつのる不満
悪癖がある(酒、女性、お金にだらしがない、度を超したギャンブル等)。この理由で解散した芸人を山ほど見てきた。オズワルドの伊藤は「芸人なんて、みんなクズですから!」と言うが私はそうは思わない。クズの定義は各々異なる。最近はわりとちゃんとしている人がクズを装った<ビジネスクズ>をする芸人も見かける。

●2人のパワーバランスが崩れまくっている
一方が全てのネタ書いてるから許されるという言い分、それを言われると何も言えない一方。逆に、この関係がうまく作用する芸人もたくさんいる。

●ステージ上でのガチ喧嘩が増える
ライブのトークコーナー中、芸人仲間達との雑談から互いのグチが止まらなくなり、喧嘩になったりする。現在、竹内ズというコンビが、自他共に認める大変な不仲で、一方が「解散しよう」と言ったら即そうなる程の危うさがある。ファンもおもしろがっているので、この関係を継続していくとどうなるのか、目が離せない。

●ライバルへの嫉妬、敗北感
芸人は<同期>(同年にコンビ結成し活動を始めた芸人)を異常なほど意識する傾向にあるようだ。同期が大変売れると、羨望、憎しみなどが複雑に絡み、くさったりくじけてしまうことが多いそうだ。

●死別
実際ではなく事実上の解散、というだけだが、カンニング竹山さんは相方の中島さんが病死した後も、コンビ名カンニングを名乗ったまま活動している。相方の死をネタにして笑いをとれるのは、今のところこの人だけのような気がする。

爆笑問題太田や、アンタッチャブル柴田、他多数が今も敬愛する伝説のコンビ、フォークダンスDE成子坂は解散後、今はもう2人とも逝去している。成子坂の桶田さんは、自身の病気を隠し続け、周囲の芸人とファンがそれを知ったのは、亡くなってから5年後だった。桶田さんは死んでからも、ずっとボケ続けていたい人だったのだ。

…などなど。

解散する理由など芸人の数だけある。恋人や夫婦の別れに例えられるように、その2人だけにしかわからないことがあるのだと思う。上記よりもっとたくさんの複雑な理由があるだろうし、もしくはもっと単純なものかもしれない。こちらは想像や推測するだけだから勝手なことを言っているが、せめて嘆くくらいは、許して欲しい。

解散の理由が上記に当てはまらない芸人もたくさんいるが、死別以外全てにあてはまるのではないかと推測する芸人がいる。

つい先日、2023年1月31日をもって解散したコウテイである。

やばスギ薬局

コウテイ(九条・下田)は大阪では大活躍していた芸歴10年目になるコンビで、早いテンポで話をまくし立て、漫才中にギャグもコント風も入るようなネタをやっていた。手の甲を外側にして指をぴったり付けたピースを出し「ズィーヤ!」と叫ぶ決めのギャグポーズ、えんじ色のそろいのスーツのせいもあり、私は一度見ただけで覚え、すぐ売れるだろうな!と思った。いかにも生意気そうで堂々としていて、自信に満ちあふれていたからだ。

東京ローカルの番組等で少しずつ見かけるようになったものの、数年たってもなかなか跳ねず、賞レースに出場しても上位には入らなかった。

そのうち九条の方が映画に出演したり、ファッション誌で活躍するようになり、強気な発言が目立つようになってきた。しかし、若い芸人が持ち合わせるような、自意識が過剰に見える九条は、見ていて気持ち良かった。

しかしその頃、たまに見かける夜中のバラエティに出てくると、番組の中で2人はよく喧嘩をしていて、不仲が売りになっていた。

下田:お前遅刻すんなスタッフさん待たせて
九条:俺はネタ書いてんねんお前パチンコやってるだけやん文句言うなボケ
下田:ネタ持ってくるの当日の朝やないけ
九条:また始まったわさっさとネタ覚えんかい
下田:(殴りかかる)

見たスギ薬局

コンビを結成してからも2度、解散と再結成を繰り返しており、先輩芸人に引き止められながらもその度に言い争いも酷くなり、このままだと傷害罪になりそうな程エスカレートしたため、次第に仕事以外の話をしなくなっていったそうだ。しかし昨年の夏頃、ラジオでの話。

下田:ずっと黙ってたけど、俺結婚してんねん
九条:ほんまかいな
下田:実は3才になる娘もおって、俺もうおやじやねん
九条:(号泣しながら)お前幸せやったんやなあ
下田:今後とも応援よろしくお願いします
九条:俺を1人にすなよ、お前おらんくなったら俺、誰もおらん

先日、平成ノブシコブシの徳井のラジオに、コウテイがゲストで出演していた。

ゆりやんレトリィバア(2021R-1GP優勝)や濱田祐太朗(2018年R-1GP優勝)達の同期の活躍を見ていると精神的に焦るし、とても辛いというような発言があった。

血尿を出し、過呼吸になるまでネタを考えて漫才をやる九条に「お前はいつも病的だしストイック過ぎる、かかりすぎている。そんなことを続けていたら死ぬ」と下田が言った。

「だったら死ぬの手伝ってや。今やらんでいつやるんや」と飄々と返す九条の、ほとんど10年間ずっと走り続けて、焦燥し、生き急いでいるように見えていた理由はこれかなと思った。

2021年のM-1GPは、3回戦進出もコロナ感染者となってしまい出場辞退。先日の2022年M-1GPは敗者復活戦に残ったが、当日体調不良のため欠席と発表された。何が原因で体調が良くなかったのか、敗者復活戦2人で漫才できない程、気持ちが離れていたのか、他になにか理由があるのか…と考えていた。

その後すぐに解散発表があり、自分でも驚くほどさみしく残念で、複雑な気持ちになった。

いつもコウテイの漫才の最後は「もうええんかい。もうええんやったら、もうええわ」と終わる。「気が済みましたか?あなたがもういいんだったら、私ももういいですよ」と言っているが、これがなんともさみしい気持ちになる。

コンビなら相手に委ねるなよ。どちらかが付き合ってあげてるみたいに言うな。2人とも当事者なんだよ。

…などと真面目に思ったりするが、てきとうに言っているだけかもしれない。

芸人の解散について書き出してみようと、進まない気がしているままぽつぽつキーボードを打ち出してみたら、自然にコウテイについての内容になり、打つ手が止まらなかった。今までで最速に上がった原稿だった。

私はコウテイが解散して悲しい、と言いたかったんだなと思った。解散した芸人は、確かに存在していたんだということを忘れずにいたい。

ズィーヤ★