答えはあるのか。正解は導かれるのか。
誰も知る由もない未来を、僕らは妄想し、夢を見るように、春の霞んだ空の、その向こう側にあるものを想い、願い、暗闇から手を伸ばすように、求め彷徨い続ける。それはまるで永遠の旅人のよう。でも本当は、いつでもそうありたいと思っているわけではなく、出来るなら何かに巻かれて自由気ままに生活したいってのが本音。面倒なことや胡散臭いものから解放されて、好きなものだけに囲まれて、気楽に生きていきたい。常にそう思って生活している。逆に言えば、そうならないからそう思っているのかも知れないけど。
春になるといつも決まって聴きたくなるサントラ『小さな恋のメロディ』。71年のイギリス映画。音楽はビー・ジーズ。「エヴァーグリーンとは何か?」と問われたら間違いなくこの映画と、そこに収められた音楽の事だと思う。それはこれからもずっと変わることはない。季節の移ろいに反映するサウンドトラック。
永遠に色褪せることのないものとは、瞬間に過ぎ去るもので、それそのものは過去のものであるという前提にある。言い換えれば、忘れてしまいそうになるけれど、いつまでも心に引っ掛かってる、ささくれのようなもの。それがエヴァーグリーン。
あのトロッコの行先はおそらく行き止まりか、振り出しに戻るってところだろうけど、そんなことどうでもいい。何度も爆破に失敗していたけれど、まさかの、いざって時に豪快に吹っ飛ばすなんて、なんて痛快で爽快なことか。
メロディ=トレイシー・ハイドの存在そのものが、エヴァーグリーンなのは決して言い過ぎなんかじゃない。出逢いも別れも成功も失敗も、すべて時の流れに身を置くことで見えたり見えなかったり、有ったことも有り得なかったことも、そういうことすべてがささくれになる。心に刺さってくる傷み。だからこそずっと残っているもの。
僕は80年代に青春期を過ごしたので、70年代の作品にはあまりノスタルジーを感じない。ほんの数年の違いで、手の届かなかった時代。そこに対しての憧れが強いから、そういう感情には至らないのだと思う。リアルタイムに体感していない時代だからこそ、手を伸ばしたくなる。
ビー・ジーズは割と好きなのだけれど、同じ世代を生きたって感じがあまりないのは、おそらくそういう理由からなのだと思う。77年の『サタデー・ナイト・フィーバー』も同じ。僕自身がディスコ世代じゃないからリアルじゃない。
けれどあの時代の若者たちの、疾走するやり場のない疎外感からくる熱情おもむくままの生き方には、魂が揺さぶられる。熱く生きられた時代って心底羨ましい。僕もあの時代に生まれたかったし、ブルックリンで野望に満ちた青春を送りたかった。踊ることに自分の全てをぶつけられるって、なんて清くて清々しいことか。
『小さな恋のメロディ』も『サタデー・ナイト・フィーバー』もどちらも素晴らしい音楽に満ちている。さすがに公開から40年以上経つとリアルなノスタルジーだけではない、追体験からくる疑ノスタルジーでも浸れるのは、どちらも悪いことではないので、なんの問題もない。
もし音楽に答えを求めるなら『Teach Your Children』の和訳を読んだらいい。教えるとか教えられるとか、いろいろなものが詰まってる。そもそも素晴らしいメロディーが美しいハーモニーに乗っているってことだけで、すでに簡潔に、答えは出てるって感じだけれど。ストーリーに音楽が寄り添うことで始まる物語。あの『アメリカン・グラフィティ』と同じように、音楽が心の揺れを優しく包み込む。結果として言葉はいらないってことになるのが『小さな恋のメロディ』がエヴァーグリーンと呼ばれる最大の所以。
届かなかったものに手を伸ばすこと、リアルでないものをリアルと感じられること、僕らは永遠に旅をする存在で、いつまでも白日夢の中を彷徨う哀れな羊であるなら、それは幸せなことなのだって思う。
本当の現実は、現代の、見たくもない傷みや苦しみに満ちている。日々繰り返される否定することの出来ない事象、向き合うことすらままならない悲しみ、うつむく事さえ許されない時代であるからこそ、彷徨うことを忘れたくないって思う。
いつかまた、たんぽぽの咲き乱れる河川敷で、ささくれに気遣いながら、君と一緒にうたたねしたい。 青い空を仰ぎ、流れる白い雲を見つめながら。
フリージン『march to the beat of a different drum – vol.5 2022』が完成しました。特集は「ピクニックには早過ぎる?」。他の方のディスクレヴューやコラムも読めますので、ぜひ「手に取って」読んでください。
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